ひでやん

不良少女モニカのひでやんのレビュー・感想・評価

不良少女モニカ(1952年製作の映画)
3.8
享楽的な日々に漂った刹那的な幸福。

八百屋で働く自由奔放な少女と、陶器店で配達係をする青年が恋をし、自由と幸福を求めて逃避行。社会に反抗とか、束縛からの解放とか、そういう逃避行は好きだ。自分の願望なんだろうな。

出会いから逃避行までの展開が驚くほど早い。隣にいた男に煙草の火を借りた少女が「今晩、映画に行こう」て、積極的すぎる。この序盤のシーンを思い返してみると、マッチの火がなかなか点かなかったのは、臆病なハリーの心境を表していたように思う。

映画観て、家に帰って、モニカが酔った父と口論になり、「こんな家出ていくわ」だもん。展開が早い。家庭や職場の描写が少ないな、ちょっと雑だな、と思っていたが、鑑賞後の感想は「このテンポで正解」だった。92分の上映時間が、北欧の短い夏や刹那の恋の体感速度になっていた。

ゴダールやトリュフォーが絶賛し、ヌーヴェルヴァーグに多大なる影響を与えた作品と言われるのも納得の映像だった。水がとにかく美しい。水面の反射や映り込み、時折挿し込まれる空のカット、じゃれ合う2人の瑞々しいアップショットが素晴らしい。強烈な印象を残したのはシガーキスのあとカメラを見つめるモニカのアップショット。魅力的で野性味溢れる大人の女性と、わがままな少女が同居したような瞳で、脳裏に焼きついた。

そして、鏡に映ったハリーのアップ。そこにオーバーラップする幸福が切ない。愛に満ちた夢の島は「長くは続かない」と観客の誰もが思ったことだろう。若さゆえに求めた自由と、幸福の先にある不自由と…。終盤はハリーが主人公となり、「ハリーの災難」という物語になった。
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