Mikiyoshi1986

ブエノスアイレスのMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

ブエノスアイレス(1997年製作の映画)
3.6
9月12日は46歳で突如この世を去った"香港の次世代スター"レスリー・チャンのお誕生日。
生きていれば今日で61歳に。

彼を初めて認識したのは確か「男たちの挽歌」だった気がしますが、
当時私よりもちょっと年上の、お洒落なものに敏感なお姉さんたち世代の間で特に熱狂的な人気を誇っていた本作。
そして今も昔も、女性からの方が圧倒的に評価が高いのも特徴的であります。
一方「男たちの挽歌」は今も圧倒的な男子人気で、男女の脳はここまで構造が違うのかってのが伺える良い例かと。

しかも本作の凄いところは、四十路のおっさんカーウァイがゲイの生々しい恋愛模様を撮って、それが若い世代にも広く受け入れられたところ。
恋愛に性別など関係ないのだと。

香港の真裏に位置するアルゼンチン・ブエノスアイレスにて、
ゲイカップルの先行きの見えない愛と苦悶の日々を描き上げた気鋭の若手カーウァイ監督。

遠い地の果てに取り残された二人の孤独感。
行き場を失い辿り着いた狭いアパートで、互いに強く惹かれ合いながらも激しく傷つけ合うことしかできない愛の切なさ。

レスリーの手のかかるビッチ加減、そしてトニーの世話焼き束縛具合は常に平行線を描き、絶えず痴話喧嘩をしながら各々の機敏をキザな映像に収めます。

本作でばっさりカットされてしまった箇所は「摂氏零度」の方に収録されていますが、
女医の出演を全カットしたのはきっとレスリーが出演した「覇王別姫」の三角関係に酷似しまうからだろうし、
チャンとファイを繋ぐ女もカットしたのは結局「恋する惑星」や「天使の涙」とあまり変わりない趣旨になってしまうからでしょう。
新しい愛の局面(つまりは同性愛)の表現を試行錯誤したカーウァイは、二人の動向に焦点を当てることでその閉塞的世界をより浮き彫りにしました。
この手応えを自信に、彼は「花様年華」でまた新たな段階へと踏み込んでゆくことに。

レスリーのどうしようもないほどの愛しさは真に迫る演技だし、
トニーもおもくそ心を掻き乱されてる様がホントたまらん!

まぁ結局は会社で横領バレたから南米に高飛びして、お次は好きになった人のパスポート返さずにトンズラ帰国(台北では写真も盗む)ってゆう、冷静に考えてお前やべぇ奴だろ…って話なんですけども。

そして本作でも撮影を務めたクリストファー・ドイル、今年公開されるホドロフスキーの最新作「エンドレス・ポエトリー」にて撮影監督を担当します。
ドイルが本作から約20年ぶりに南米を撮るということで、彼はホドロフスキーの世界をどう切り取ってくれるのか大変楽しみです!
Mikiyoshi1986

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