Mikiyoshi1986

瞳をとじてのMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
4.2
ビクトル・エリセが30代前半で完成させた名画「ミツバチのささやき('73)」から実に半世紀。 
エリセ御年83歳にして、彼の長編最新作をまさか劇場で観られる日が来るとは…!
その間にも様々な試行錯誤や、志半ばで叶わなかった映画人エリセの"ペルソナ"、もとい映画の"スピリット"はきっと無数にあったはずで。

フランコ独裁政権(1939-75)以前の、スペイン国王の国外亡命。
そして以後の、その孫による王政復古の歴史。

エリセのフィルモグラフィー同様、かつてのフランコ政権下で国内の映像作家たちが検閲を逃れ、暗喩として体制批判を作品に込めた歴史的背景は、
本編の劇中映画「別れのまなざし」にも投影されていました。
そして「10ミニッツ・オールダー('02)」の短編に出てきた中国的な扇子のマクガフィンもこの度やっと腑に落ちました。

時を越えた未完作を逐うプロットには、アンゲロプロス「ユリシーズの瞳('95)」や本当に未完となった同監督「20世紀三部作」にも想いを馳せ、
本ポスターにはベルイマン「仮面/ペルソナ('66)」のオマージュだったり、
それこそペルソナ的意味合い&映画愛の点ではベルトルッチ「ドリーマーズ('03)」だったり、
「別れのまなざし」の雰囲気は「暗殺の森('70)」&ジャン=ルイ・トランティニャンぽかったり、
また近年のレオス・カラックス作品やカウリスマキ復帰作や宮崎駿の新作セルフオマージュにしかり、
とにもかくにもスペインが育んだ偉大なるシネフィル、ビクトル・エリセ監督の老境に入った渾身作をようやっと目の当たりにすることできました。

いま我々が体験する、
映画に纏わる"喪失"
そして、まなざし。

でも、もうこれが最後なのか?
もう"あなた"とは、めぐりあえないのか?

いや、
そんな時は、
瞳をとじて。

そう、あなたも観たはず。

"Soy Ana"と。
Mikiyoshi1986

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