明石です

スティーヴン・キング 痩せゆく男の明石ですのレビュー・感想・評価

5.0
不正を働いたおデブさんな弁護士がジプシーの黒魔術にかけられ、日に日に痩せてゆき、ダイエット成功!思ったら悪夢だったという最高に楽しいホラー映画。リチャード・マシスンの『縮みゆく男』に触発されてスティーヴン・キングが書いた原作の映画化。サムライミの『スペル』の元ネタになった作品ですね。

体重134キロの巨大を抱え「スプーンとフォークで自分のお墓を掘っている」主人公の男は、運転中に奥さんのblow jobを楽しんでいたところ笑、ジプシーの老婆を轢いてしまう。しかし弁護士としてのコネを生かして罪を逃れた結果、ジプシーの私怨を買い、呪いにかけられてしまう!!なんだか『クリープショー』の1話を思わせるモラルテイル全開のストーリーだ、、笑。

そのジプシーは106歳という設定で、顔の中央に醜い腫瘍があり、皮膚はシミだらけで髪もボサボサ、乗ってる車は30年間砂漠を走り続けてきたみたいな年代モノ。しかも「町の白人」こと登場人物たちが明らかに彼らを軽蔑してみせる等、偏見がすんごい笑。サムライミしかりキングしかり、呪いをもたらす映画的な仕掛けとして積極的に彼らの存在をお借りしてるのだから、アメリカにおけるジプシーのイメージが知れようというもの。極めつけは「もしジプシーの呪いなんてものが存在するなら、街全体が呪われてるはずだよ」という特大の皮肉。わかってやってるんですよ、というのを知的なユーモアで示そうとする姿勢とても好き。

その老ジプシーに「痩せゆく」呪いをかけられ主人公は、ラテックス製の贅肉を日に日に落としていき、骨と皮だけになっていく、、一方で「トカゲ」の呪いをかけられた彼の親友の判事は、皮膚が剥げて鱗になり、日増しにトカゲになっていくという、、その変身の過程を克明に語る奥さんがトンデモなくホラーで、その後出てくる皮膚がボロボロ取れた判事の顔には本気で鳥肌たった(思い出すだけで肌がゾワゾワしてくる)。集合体恐怖症なので本当に死ぬかと思ったよ、、

しかしもっと怖いのは体の肉を落としていくとともに狂気をまとっていくロバート・ジョン・バークの演技。苦しんだ末にジプシーのキャンプを訪れ許しを乞うも、断られたので「町の白人の呪い」をかけてしまう主人公。そしてその「白人の呪い」ことマフィアの力を借りて仕返しすべく笑、アサルトライフルを携え殴り込み!!しかもそれは殺戮のためではなく、もっと深い意味があって、、あらら最高の映画でしたか。

序盤で主人公が弁護し、窮地を救ったマフィアのドンが、終盤で仁義を通しにくるというシナリオは、何層にも仕掛けを用意するキング小説の旨さが出た感じなのかな(原作は未読です)。しかもその後半以降の主役としてマフィアのドンを演じるジョン・マンティーニャは、アルカポネで知られるイリノイ州シセロ出身の本物のイタリア系で、ゴッドファーザーやウディアレンの(マフィアを題材とした)映画でも同じくマフィアのドン役をこなしてた人。お顔からオーラから喋り方から、全てにおいて説得力が凄い。しかも知的、、

終盤は自分が「痩せゆく」病にかかっている間に医者と浮気をしていた奥さんを恨み、呪いを移そうとするドロドロした展開に。そして待っていた最高のオチ!!まさかそんな風に因果が巡り巡るとは、、肥満体の男がどこまでも痩せゆくだけでは芸がない(あるいは予算的に難しい)と踏んだのか、後半以降の軸足の移し方が非常にお見事。キング自身は本作の出来にはあまり納得いってなかったようですが(曰く、『地下室の悪夢』の予算で作った『ミザリー』だ、とのこと)、私的にはキング原作の映画の中だと『デッドゾーン』や『ゴールデンボーイ』の次点で名作だと思う。
明石です

明石です