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散歩する霊柩車のbeachboss114のレビュー・感想・評価

散歩する霊柩車(1964年製作の映画)
5.0
寅さんと黄門様という国民的二大クセ者俳優が霊柩車の運転席に並んで座ってる絵面だけで、そこはかとなく「来る」んですわ。暗くて黒くて苦い笑いが。ジワジワと。

片や痩せこけた小男に、片や暑苦しいデカっ面。どちらも妖怪顔だけに、まるで「まんが日本昔ばなし」の一場面。

独特の浮遊感は、現世から離れて冥界をさまよっているかのよう。そこで繰り広げられるのは、人間古来の業と強欲の物語。語られるのは因果応報の教訓。まさしく現代の民話。

怪奇映画的なライティングやショック演出から、むしろ「笑える怪談」と言った方がしっくりくるかも。

リアルねずみ男・金子信雄を始め、脇を彩る「アク」とか「クセ」とか「アジ」系の役者たちの競演は、さながら怪優たちの「お化け屋敷」。「出た! 花沢徳衛」「後ろ! 小沢昭一」「そこか! 加藤嘉」。

さらに、88分というコンパクトな尺の中に予測のつかないサスペンスフルな展開を次から次へと盛り込んでいく手際の良さ。少々の細部のアラなんて目を瞑れるぐらい面白い。所詮、民話で寓話なんだし、カタいこと言う方が無粋。

白眉は終盤、木枯らし吹く中を満を持して再登場する霊柩車。坂の向こうから、いい感じでやってくるんだ、これが。悠然と、幽玄に。フワぁーっとね。しかも、もう一波乱を予感させる佇まいで。

一方、この映画のもう一つの売りの部分である「エロティシズム」。これが、シミーズ着てクチビル突き出す春川ますみ姐さんのことを指しているのだとしたら「おい、ちょっと責任者呼んでこい」って話なのだが、彼女と西村晃とのラブシーンなんて、ほとんど嫌がらせの域。作り手たちのイタズラ心や高笑いが透けて見える。

主題歌もこの二人のデュエット。しかも、レコードまで出してやがる。作詞が岩谷時子ってだけでも驚きなのに、作曲が西村晃って、もう、やりたい放題。

全方位、隅々までサプライズの詰まった怪作にして快作でしたわ。
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