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隠された記憶(2005年製作の映画)
4.2
 閑静な高級住宅街の一角に構えた一軒の邸宅。人気キャスターであるジョルジュ(ダニエル・オートゥイユ)と、作家で彼の妻アン(ジュリエット・ビノシュ)、一人息子のピエロ(レスター・マクドンスキ)は何不自由ない優雅な生活を送っていた。そんなある日、ジョルジュの元に送り主不明のビデオテープが届く。テープに映し出されたのは、ジョルジュの家の風景と家族の通勤・通学の様子で、やがてビデオテープの内容は回を追うごとに徐々にプライベートな領域へとエスカレートしてゆく。冒頭、3分強の固定カメラで撮影された映像が不穏な空気を醸し出す。外に出てどこから撮った映像なのか確認してみると、家の前の通りで撮影されたものであることがわかる。いったい誰が?何のために?姿の見えない送り主の姿に怯える日々が始まる。ヒッチコックのようなミスリードを強いる今作において、犯人は21世紀においてもはや珍しくなったVHSテープというメディアを通し、核家族に物言わぬ警告を発し続ける。最初は自宅にのみ発送されていたビデオテープがやがて主人公の勤めるTV局にも届き、不気味な血のついた何者かが書かれた絵ハガキは一人息子の通う学校にも届く。悪戯は徐々にエスカレートし始め、やがて主人公は子供時代のある苦い思い出に辿り着く。

 だが中盤、ジョルジュが犯人に当たりをつけた時点で、サスペンスとしての魅力は薄まる。我々人間は常に、誰かにしてあげたことはすっかり忘れているが、誰かにされたことはいつまでも覚えている。主人公のジョルジュは嫉妬に駆られ、マジッドを孤児院に追いやったことはすっかり忘れているが、マジッドはその幼少期の苦い思い出をずっと引きずっている。ここでもハネケ作品の共通の特徴である「人種差別」の問題が頭をもたげる。裕福な家に生まれ、それなりの教育を受け地位と名誉を得た主人公の生活に比べ、アルジェリアに生まれ、民族解放戦線のデモで両親を失ったマジッドは未だに団地の狭い部屋に押し込められている。先進国に生まれた人間は常に無意識下で誰かを差別しており、その見えない恐怖に怯えている。一人息子のピエロが母親の浮気を疑い、友達の家に泊まる展開は脚本上の辻褄合わせだろうが、ここに来て人間の憎悪は制御出来ないところにまで来ており、引くに引けない主人公の憎悪に対して、マジッドはあっと驚く結末を用意する。ここではハネケ作品の中で初めて死の場面がワンショットで観客に公開されるが、それはむしろ残酷さではなく、事態のショッキングさを強調する。ロング・ショットの位置取りも含め、釈然としないラスト。いったい誰がビデオを送り付けていたのかの謎は残る。