Kuuta

暗殺の森のKuutaのレビュー・感想・評価

暗殺の森(1970年製作の映画)
3.8
ワクチンの副反応でぼーっとしつつレッドブルがぶ飲みしながら見たのでストーリーが曖昧なのだけど、ファシズムについての映画ではない?最後の暗殺シーン、ファシズムの冷酷さというよりは「中途半端な男が最悪に残酷な行動を取ってしまう」という風に見えた。

幼少期のトラウマから「正常」への強迫観念を抱え、その時代にたまたまファシズムがあったから乗っただけ。劣等感に怯え、父性を求めながら父性を憎む自己矛盾。男の空虚さの反映でもあるのだろうが「ファシスト側につくかどうか」が、セリフだけでやり取りされている印象。バーホーベンなら体制側の醜悪な姿を全力で描くはずだ。男の薄っぺらさを知りながら「愛しているから良い」と断言する妻のスタンスは面白かった。

部屋を白黒に分断する影、ドリーショットや統御された室内の撮影には直線への美意識が感じられる。大筋は擬似的な母とのセックスと父殺しという古典的な内容で、モダニズムやファシズム建築に立ち現れる強固な父性に主人公は苦しんでいる(幼少期のトラウマシーン、建物に入る前に戯れ合う庭の奥には、悪しき父権の頂点にいるヴァチカンが映っている)。露骨な斜めのショットなど、ドイツ表現主義を弾圧したナチスという文脈もあるのだろうし、美術史に詳しければより楽しめた気がする。

直線的な世界を掻き乱すのが人の体なのだろう。広い廊下を歩く引きのショットで、カメラがパンして警備員のおっさんの横顔を端に捉え、ピシッとしたフレームが乱れる。愛人の女性が机に横たわる場面、机の直線とアンバランスな体が対比される。ダンスシーンの渦巻き。最後の森では木々が高く真っ直ぐ伸びていて、白い光、全力でブレるカメラ、真っ赤な顔で締める。ラストはプラトンの洞窟の比喩が映像化される。
Kuuta

Kuuta