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世にも憂鬱なハムレットたちの一人旅のレビュー・感想・評価

5.0
ケネス・ブラナー監督作。

落ち目の俳優と三流役者達が「ハムレット」の上演に向けて奮闘する姿を描いたコメディ。

俳優としても活動しているケネス・ブラナーが初めて監督に徹したモノクロ映画で、英国の小村を舞台に、落ち目の俳優:ジョーとオーディションで選ばれた訳あり三流役者達が、シェイクスピアの「ハムレット」の上演を成功させるべく奮闘する様子を描いています。

俳優の仕事にありつけず困っていた俳優が、起死回生の一手として自身が座長を務める舞台劇を企画するが、いざオーディションを行ってみると、自分と同じように仕事のない三流役者ばかりが集まってしまい―というお話で、頑固者の老俳優や、離れて暮らす息子がいるゲイ、夫を航空機事故で亡くした女優、発音に拘る完璧主義者、アル中男―と一癖も二癖もある役者達&裏方が、紆余曲折を経ながら、「ハムレット」の上演成功目指して一致団結して稽古を重ねていく様子が描かれます。

実力がまるで無い負け犬三流役者達の奮闘記で、稽古のさなかに様々なトラブルに見舞われながらも、役者の夢を共有した彼らが遂に初演を迎えるまでの日々をユーモラスに描いています。そして、上演が成功するか失敗するか、名前が売れるか売れないかということ以上に、小村の寂れた教会という一つ屋根の下で彼らが共に過ごした数週間の日々とその過程で育んだ役者同士の絆がハートフルな一篇となっていて、役者としての結果(富と名声)以上に、役者という職業にしがみつく人々の儚い夢と悲哀に満ちた生き様を温かな視点で見つめています。

今までにシェイクスピア作品をいくつも手掛けてきたケネス・ブラナーですが、本作に限っては原作を真正面からそのまま映像化したのではなく、「ハムレット」上演の舞台裏、クリスマスを前に集まった売れない役者達の奮闘にスポットライトをあてた群像コメディとなっています。ローレンス・オリヴィエ版『ハムレット』(48)を彷彿とさせる全編モノクロの映像や、劇中歌として流れる「Why must the show go on」のリズミカルなメロディーも効果的であります。
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