半兵衛

間諜最後の日の半兵衛のレビュー・感想・評価

間諜最後の日(1936年製作の映画)
2.9
ボタンの件をはじめ随所でヒッチコックらしいハッタリが効いた演出がストーリーを盛り上げてはくれるが、肝心の主人公とヒロインが自分の仕事であるスパイの任務を疎かにして挙げ句の果てに偽の夫婦から本物のカップルになろうとするけど障害が…ということに熱中しているので白けてしまう。あと標的である人物を殺害するという重要な仕事を間違えるという後味の悪い構成やそれを大して気にしない登場人物たちも作品と観客の距離を離してしまう原因になってしまっていることに。

それでもヒッチコックが若い頃映画で色々失敗やしくじりを重ねた結果、観客を虜にするサスペンステクニックを完成したことを踏まえるとこうした試行錯誤もそれなりに味わいを感じてくる。

主人公たちが仕事をしない分、彼らと任務を遂行する「将軍」と呼ばれるスパイが演じるピーター・ローレの怪演のインパクトもあって物語を牽引していく。女に眼のない軽薄そうな表向きの姿、時折見せる不気味な表情、アドリブとしか思えないの演技の数々(ヒッチコック監督がカットのリズムを差し置いてまで彼の演技を全部使っているのはやはり気に入っているからなのだろうか)、サイコパス寸前のスパイという強烈な人物像はラストの熱演といい見終わったあとローレの姿しか残らないほど。

あとラストは戦争に対する皮肉のつもりなのだろうが、この映画が完成したあとのことを考えると笑えないな。
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