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ピンポンのdm10foreverのレビュー・感想・評価

ピンポン(2002年製作の映画)
4.0
【飛べない鳥】

もう、15年以上前の作品なんですね。
当時は劇場で観てはまって、DVD買ってまたはまって、サントラ買ってやっぱりはまって・・・(笑)。
ほんとにDVDの盤面が擦り減って薄くなったんじゃないか?っていうくらい観た。
何故かはよくわからない。
窪塚洋介が好きだったから?
確かにあの頃は結構彼の作品は観ていた(詳しくはLaundryのレビューにて)。

ただ、何となくだけどそれだけじゃない気がする。
当時は青春映画でありながらも、どこかスタイリッシュでサラッとした質感の映像と、SUPERCARのテクノサウンドがなんとも心地よくて、イメージ的には「夏の青春映画」ではあるんだけど、同じく「夏」「部活」がテーマのウォーターボーイズなんかとは明らかに「質感」や「肌ざわり」が違う。
あ、ウォーターボーイズも大好きですよ。
両方とも全く別物なんで。

―――この作品は松本大洋原作のマンガを実写化した作品。
とにかくキャスティングがいかしてた。
前述の窪塚洋介は突飛な行動をとるペコがハマリ役だったし、対照的なスマイルもARATAはすっぽりきていた。
単に「対照的」「正反対」だけならこの2人である必要もないところなんだけど、この二人の距離感が絶妙でなんとも居心地のいい「涼しい映像」を見せてくれる。

この物語に出てくる高校生達は皆もがいてる。
ペコはとにかく卓球センスの塊のような奴。
だけど、好きで好きで堪らないくせにその過剰すぎる自信が卓球との向き合い方を妨げてしまっている。

スマイルはとても穏やかで優しい心の持ち主。
卓球の才能もずば抜けていて、もしかするとペコのそれを凌駕するかもしれないくらい・・・。
だけど、優しさが故に対戦相手に対して戦意剥き出しで戦うことを避けていた。そしてそれは自分自身に対する負けをも意味していた。

ドラゴンは、常勝海王の中でもずば抜けた「卓球の権化」。
しかし、積み重ねた勝利の分だけ圧し掛かってくる「負けが許されない」という極度の重圧に、たった一人で孤独に向き合っていた。

この三人に共通しているのは「実は卓球を心から楽しみたい」ということ。
そして有り余る才能の使い方や他人との距離感にもがき苦しんでいること。
そしてそれは才能を持たない凡人からみれば「飛べるのに飛ばない鳥」だということ。

その点でいうとアクマ(佐久間)は、この物語の中では「凡人」の側にいる。
前述の三人の間で必死にもがいて、自分も飛び立とうとしているのに、途中で気がついてしまう

「あ、俺は飛べない鳥なんだ」と。

だからもどかしくて仕方なかったのだ。各々「飛べるのに飛ばない鳥」に対して・・・。

「どうしてお前なんだよ!!俺はお前の100倍も、1000倍も、いや10000万倍も練習してきたんだ。ずっと卓球の事だけ考えて生きてきたんだよ!なのに・・・何でお前なんだよ!!」

海王の掟を破って無断で対外試合を行なった挙句、スマイルにボロ負けしたアクマ。
彼の心の叫びは、青春時代にみんな何となく感じたことがあるであろう、ほろ苦い劣等感。
それは恋愛であったり、部活であったり、勉強であったり。。。

「それはアクマが弱いからだよ・・・」
スマイルの一言がトドメを刺す。

(そんなこと、端から知ってんよ・・・。)

この物語はあくまでもペコとスマイルの友情物語がメインの王道青春映画。
スマイルが「相手を倒す」という事が出来ないジレンマに押しつぶされそうになっている時、ヒーローがきっと助けに来てくれる。
(きっとペコが・・・)
でもそれはペコにとっても同じことだった。
自信をへし折られたペコがもう一度立ち上がるためには「自分がヒーローだ」ということをもう一度思い出さなければならなかったから。

ドラゴンが叫ぶ
「どうした?!ヒーローなんだろうが!!!」
まさにドラゴンすらもペコが相手なら純粋に卓球が楽しめるかもしれない、だからこそ中途半端なことはするな!と叱咤するシーン。
まさに三人が「もう一度飛ぶため」に必死でもがいた青春ストーリー。
きっと表向きはそういうお話だと思う。

でも実はもう一つのストーリーが同時に進行していて、そこには「アクマ」という主人公がいた。
そしてそのアクマとは観ている私たちの代表でもあるのだ。
凡人であるアクマだからこそ、客観的に三人の苦しみが見えたのだと思う。

「凡人しか見えねぇ景色ってもんもあるんだよ」

何故だか久しぶりに観た今回はアクマに心を重ねて観ていました。
そして前回見たところとは全く違うところで不意にホロッと来てしまいました。
やっぱ、好きなんだな~この映画。
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