のすけ

蜘蛛巣城ののすけのレビュー・感想・評価

蜘蛛巣城(1957年製作の映画)
3.9
『蜘蛛巣城』 1957年

監督:黒澤明
脚本:黒澤明
   小国英雄
   橋本忍
   菊島隆三
撮影:中井朝一
音楽:佐藤勝
出演者:三船敏郎
    千秋実
    山田五十鈴
    志村喬
   

 戦国時代、城主に使える家臣が老婆に城主になると予言され葛藤するが妻に促されて城主や友を裏切り、城の主となる。しかし、友の亡霊に怯え、発狂し、ついには敵に追い詰められて敗れるという話。

 シェイクスピアの『マクベス』が原作となっている。

 三船敏郎演じる鷲津は老婆に予言されてから葛藤しながらも、妻に唆され自分の主を手にかけ、友まで裏切る。そして、最後には欲望に堕とされてしまった者らしく、無数の矢を浴びる。老婆の予言はことごとく的中するが、そのほとんどは予言を受けたことで影響された鷲津が自身の判断で起こした行いによるものである。つまり、運命決定論などではなく、老婆は唆しただけとも言える。老婆の予言は絶対ではなく、鷲津が老婆に惑わされてしまったのである。本作の主題(本作というよりかはシェイクスピアの「マクベス」の主題であるとも言えるが)は人間の根源的な部分を描いている。人間は一度手に入る可能性を見てしまったが最後、それに執着してしまう生き物なのである。贅沢を一度知った者は、贅沢を捨てることを考えられないだろう。

 今作は戯曲の映画化ということもあってか、演劇のような演出がなされている場面が多々ある。また、本作は「能」がかなり意識されているらしい。そのためか、ロングショットが多く、シーンが演劇の場面のような作りになっていることがしばしばある。演劇の場面とは同じ「場」で三つの壁に囲まれた空間(あと一つは観客席)のようなことである。そのため、画という点ではあまり楽しめなかったのが個人的な感想だ。「映画化された演劇」はあまり面白くないことが多いが、本作もその要素を少なからず持ってしまっている。しかし、かといって完全に能をただそのままフィルムに撮影したものとは大きくかけ離れている。動きがない会話のシーンのように見えてもクロースショットを時折入れたり、カメラが役者にグッと近寄る動きなどが垣間見えたので、そういった点を鑑みると能と西洋戯曲を融合させ、それを映画にまで昇華させたということができ、これは多大なる功績であるとも思う。

 最後に鷲津が数多の矢を射られるシーンでは望遠レンズなどをうまく使って撮影されており、たくさんの矢が三船敏郎を迫るという迫力あるシーンに仕上がっている。

 
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