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旅路の果てのひでGのレビュー・感想・評価

旅路の果て(1939年製作の映画)
4.1
名匠ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の
1939年作。つまり戦前の映画なのに、全く色褪せていません。
時間も国境も越える不朽の名作です!

かつての俳優たちが余生を過ごす養老院が舞台と聞きて、枯れた人生を懐かしむようなノスタルジックな映画を思い浮かべていましたが、あの「舞踏会の手帖」のデュヴィヴィエです。余ったるい懐古作品に仕上げる訳がないね。

お話は、3人のシニアの元俳優の男性を中心に回っていきます。

マルニーは、現役時代も古典中心にした名優。引退してもその当時の雰囲気もままの
老後も過ごしている。
彼はかつて人気絶頂だった俳優サンクレールに妻を寝取られた過去を引きずったまま生きているのだ。

その養老院に、何とそのサンクレールが現れるのだ。
サンクレールは根っからのプレイボーイ。
この養老院の中にも彼と浮き名を流したかつての女優たちが複数居る。
中にはサンクレールの子どもを産んでいた女性もいた。
マルニーはずっとサンクレールを憎み、なぜ妻は自分を捨てたのかを自問自答して生きていた。いわば過去に囚われて現在を捨ててきた男。

一方のサンクレールは、過去は過去、自分がしたことさえ忘れて、今、また孫と同じ歳の娘を口説いている。現在(いま)を生きるだけの男。
2人の対比が実に面白い。

これだけでも十分奥が深いのだが、デュヴィヴィエは、もう一人の男をまな板に乗せてくる。この養老院を仕切っているカブリサードだ。彼は長年代役専門の役者で一度も舞台に立ったことがないのだ。

だが、彼は「それは運がなかっただけ、実力は舞台の上の役者よりあった。」とそれをプライドに生きてきた。
「舞踏会の手帖」もそうだけど、デュヴィヴィエは、残酷ですね〜

歳をとると(僕もそうだけど)過去の方が未来よりずっと長くなっていく。
過去とどう折り合いをつけていくのか、過去なくして現在(いま)の自分も、未来の自分もない。

だからと言って、それだけに囚われていてはいけない。劇中のマルニーは、過去と決別してようやく未来が見えてくる。

外見はお年寄りだけのお話だけど、甘いノスタルジックに終わらせない、巨匠の残酷で深い作品だと思いました。
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