Inagaquilala

赤ちょうちんのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

赤ちょうちん(1974年製作の映画)
3.8
新文芸坐の「没後20年 藤田敏八 あの夏の光と影は〜20年目の八月」で観賞。この期間に上映される14作品の中で、唯一、<東京国立近代美術館フィルムセンター提供作品>とあったので、映画会社にももうフィルムが残っていないのか。記憶では、同時期に東宝で、同じかぐや姫のヒット曲「神田川」を基にした作品もつくられており、公開もほぼ同時期だった(正確には「赤ちょうちん」のほうが2週間早い)。

どちらも男女の「同棲」を扱ったものだが、こちらの作品は、「同棲」という甘い響きはほとんどなく、東京都内で引っ越しを繰り返す男女の物語だ。作品内で高岡健二が扮する主人公・正行は、都合4回引っ越しをするが、そのパートナーで秋吉久美子が演じる幸江の引っ越し場面は3回だ。

九州は天草出身の幸江は、駐車場に勤める正行と知り合い、窓を開けると電車が通る彼の狭い部屋で一夜を明かす。政行の部屋に祖母宛の現金書留を忘れていってしまったことがきっかけで、幸江は彼の部屋に戻るが、そこでふたりは互いに惹かれるものを感じる。騒音に耐えかねて、政行が火葬場の近くの「静かな」アパートに引っ越すが、そこに幸江も転がり込んでくる。確かに静かではあるが、窓を開けると火葬場の煙突が見え、不吉な兆しがふたりを包む。

その後、幸江が妊娠し、子供が生まれると、今度は郊外の住宅。ここで幸江は近所付き合いがうまくいかず、今度は下町の家賃がとびきり安い二軒長屋へと。しかし、この家にも実は曰く因縁あり、幸江の心は少しずつ狂い始めていく。

大ヒット曲「神田川」の次にかぐや姫がリリースした曲をタイトルにしてはいるが、物語はまったくそれとは関係なくつくられており、ひと口で言えば「東京引っ越し物語」である。引っ越しを繰り返していくうちに、地方出身者である幸江の心が、少しずつ変調をきたしていき、最後はカタストロフを迎える。秋吉久美子の演技はこれが主演2作目とは思えないくらい実に奔放な演技を展開している。

冒頭、ふたりが心を寄せ合うシーンが印象的だ。会話はいっさい音にして出さず、ただふたりの映像だけで描写していく。このあたりがかなり新鮮な映像として、当時は受け入れられたのかもしれない。場面転換もきびきびしており、めりはりがあり、藤田敏八調が横溢している。ただテーマが重いためか、次作の「妹」ほど、軽妙に処理していく感じはない。たぶん脚本家の違いだとは思うのだが。
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