若尾文子の独壇場。当時28歳、男に恋い焦がれる女の妖艶な魅力が、これでもかと溢れている。
愛していない夫(小沢栄太郎)、愛する若い男(川口浩)、妻(若尾文子)の3人で北穂高に登り、岩壁で転落してしまう。
妻と夫が宙づりになり若い男が上で2人のロープを支えている。しかし、妻は夫のロープを切り、夫は落下してしまう。保険金目当ての夫殺しの容疑で告発され、妻は法廷に立つ。
法廷サスペンスとしても、ラブストーリーとしても、愛に狂う一人の女の生き方としても面白い。
性差の偏見と、世間の好奇の的になっている中でも、愛する男に堂々と会いに行く。愛に狂う女の姿は怖いぐらいだった。
岩壁のシーンが当時にしてはリアリティがあるのがすごい。セットで撮影したそうだけど臨場感がある。
夫の小沢栄太郎がゲスすぎて、死んでも当然だろうと思わせる。
ずぶ濡れで現れる若尾文子の狂気×妖艶のインパクト。ここだけでも観る価値があると思う。シュールな劇伴もよかった。
陰影のあるショットの不気味さ、シルエットだけでも美しいと思わせる文子様のラストショット。
唯一、男の元婚約者(馬淵晴子)だけが正しかった。「奥さんだけよ本当に人を愛したのは。そんな女をバカだとかキチガイだとか言うのは男よ」
本気で人を愛した者だけ、愛と死が表裏一体となる。