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デス・レース2000年の教授のレビュー・感想・評価

デス・レース2000年(1975年製作の映画)
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何も、どこにも「正義」のない世界こそ、本来の「人間」のあるがままの姿でそれ以上でもそれ以外でもない現実を前提にして、どうしようもなさを残したまま、尊厳の奥底にある大義を暴力的に発揮する映画に、いつも元気をもらう。

本作はそういう作品。
製作当時から数えれば未来にあたる西暦2000年。覇権を握り、肥大し、世界を支配する「アメリカ」の統治によって国民はあらゆる面で「管理」された社会。
その反動を防ぐ為の「ガス抜き」としてテレビ中継される「殺人レース」が唯一の娯楽となっている世界。

「ヒーロー」としてのレーサーたち。
中には若いシルベスター・スタローンもいる。
彼らがアメリカを横断しながら道行く人を殺しまくれば優勝、というルール。

その「ジャンル映画」的な非俗さ、野蛮さの中に、いけすかない「正義」いけすかやい「管理」という反権力や衆愚的な思考に対する素朴な怒りが満ちている。

ロジャー・コーマン製作の「超低予算映画」だがレースシーンの躍動感、スピード感のキレ味、コメディとして演出される殺害シーンの中にさりげなくフランケンシュタイン(デヴィッド・キャラダイン)のヒーローとしての悲哀感、粗暴で野蛮なジョー(シルベスター・スタローン)の不器用な優しさ、カラミティ(メアリー・ウォロノフ)の意外なまでの仲間意識など、非情な人間性の中にも温かな感情が忍ばされている奥ゆかしさが入れ込まれていて、実は繊細な側面もある。

ラストには「暴力的な映像が人を不快にする」という言及もあり、この非俗さ、反倫理的な描写を批評的に捉えている点も忍ばされて隙がない。
予算以上のクオリティを発揮しつつ、映画的な緻密さ、繊細さも取り込まれて非常に質の高い楽しい映画。
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