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レベッカのSPNminacoのレビュー・感想・評価

レベッカ(1940年製作の映画)
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ヒロインは登場するなりもう不憫。出会った途端に逆ギレされ、余計な口を出すなと叱られ、夢のようなデートでも叱られ、プロポーズされれば嫌味を言われ、それでも受け身のまま、迎えられたマンダレイ屋敷に雨が降る。実は始めから幸せな時間などちっともなく、降って湧いた幸運に怯えてばかり。そもそも彼女には名前がない。だが、屋敷は至る所に名前がある。レベッカと。
新婚生活も厭なことの連続。情緒不安定な夫マキシム(同時に抗えない色気のローレンス・オリヴィエ)、黒い影法師のような侍女ダンヴァース夫人のチクチクと棘のある扱い、イケズな英国上流文化、何よりヒロイン自身が抱える引け目と不安。結婚で幸せになるという幻想にすがってしまう、無力な女性の立場がこれでもかと。
一方でまた、無力で痛ましいのはダンヴァース夫人だ。後妻を陰湿に虐げ追い詰める彼女は、展開がまさかのツイスト後、立場が一転する。何故なら、ダンヴァース夫人も愛の幻想にすがる女性だから。恐らく一度も応えてくれたことのないレベッカへの忠誠は、主従関係と階級差の捻れた依存。ここでも「名前を貸すこと」が滅私的な愛の表現になっている。
ジョーン・フォンティーンの清楚で儚げな横顔がゆらゆら消えそうな蝋燭の火のように美しく、その揺れる灯で微妙に表情を変える能面のようなジュディス・アンダーソンの情念演技。忠誠が報われる/決して報われない2人が浮き彫りにする光と影。勝者をダンヴァース夫人の放った炎が照らす。
そしてまた、登場しないレベッカも亡霊として幻想にしがみついているのが哀しいのだった。冒頭で語る声は誰なのか、次第に読めてくるのが恐ろしい。そう、初めから終わりまでこれはレベッカの物語なのだ。
終盤は如何にもヒッチッコック的なキャラクターが集まって少々トーンが変わってしまうけど、亡霊とそれに翻弄される夢遊感はダフニ・デュ・モーリエの原作ならではなんだろう。同じく映画化された『赤い影(Don't Look Now)』とも似てる。実は初めて観たのだが、極上の亡霊お屋敷映画だった。
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