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ビフォア・サンセットのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ビフォア・サンセット(2004年製作の映画)
4.2
 午後のパリの街並みと街の喧騒、通りに面したLE PURE CAFEの佇まい。アメリカ人青年ジェシー(イーサン・ホーク)と、ソルボンヌ大学に通うセリーヌ(ジュリー・デルピー)がブダペスト発パリ行きの列車の中で出会ってから9年。あの奇跡のような一夜のことを描いた小説 "This Time "を発刊したジェシーは、12日間で10都市のサイン会ツアーを行い、最後の街としてパリの書店を訪れていた。フランス人記者からの問いかけに笑顔で答えるジェシーは小説の結末をぼかしていた。あの日の核心に迫られ、一つ一つ言葉を選びながらあの夜のことを話すジェシーがふと横を見ると、そこにはセリーヌが立っていた。はにかみながら、思わず二度見するジェシーは書店員(ヴァーノン・ドブチェフ)から運転手のフィリップ(ディアボロ)を紹介される。空港からアメリカ行きの飛行機が出発するのは7時半、ジェシーはそれまでの時間をパリ在住のセリーヌの案内で2人で歩きながら話を始めた。

 物語と現実は同じ時間を繰り返し、『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』から9年後、ジェシーはセリーヌと思いがけなく再会を果たす。1994年6月6日のあの日、ウィーンの芝生の上で赤ワイン片手に結ばれた男と女は、ちょうど半年後の12月6日、ウィーンでの再会を約束し、別れる。スマフォもラインもない時代、フランスとアメリカの遠距離生活。唯一のコミュニケーション手段だった約束の日にジェシーは現れたが、その日に大好きだった祖母のお葬式があったセリーヌがウィーンを訪れることはなかった。そこで切れた赤い糸を手繰り寄せるように、セリーヌはふいにジェシーの元を訪れる。眉間に縦じわが増えた男の姿に微笑むセリーヌは、9年前よりは少しやつれたようにも見える。あの日の結末を書かずにいた小説家のジェシーは、付き合っては別れてを繰り返していた彼女が妊娠したとこで結婚、男児をもうけるが結婚生活は上手く行っていない。対するセリーヌの方も、あれから何人もの男性と付き合うが、長続きしない男性たちは彼女と別れてから全員が別の女と結婚していた。

 あの夜のことをロマンチックに思い返す男性に対し、女性の方は行きずりの男とは何もなかったわと平然と言い返す。その男女のあの夜を巡る落差とレイヤーの違い。思わず狼狽するジェシーの目を見つめる女の姿。たった数時間だけの2人の再会を、男と女は互いに言葉が溢れるかのようにとめどなく話し続ける。カフェからフェリーに乗り、フィリップの運転する車へ。運転手が聞き耳をたてる中、密閉された空間に閉じ込められたセリーヌは突如、女としての本音をジェシーにぶつける。「あの夜で恋する気持ちは全て使い果たしたわ」環境活動家になった女は、小説家として成功したあの日のままのロマンチストな男を軽蔑しながらも、男の本音を知りたがっている。フェリーの上でジェシーの家庭の話を聞くときのジュリー・デルピーの寂しげな表情が何よりもそのことを物語る。パリ10区、プティトゼキュリエ通りにある彼女のアパルトマン、猫のチェが迎え入れてくれた2人は階段を昇りながら、あの日のことを考える。セリーヌがギターを弾きながら歌う曲、そしてNina Simoneの『Just In Time』のメロディだけが2人を9年前のあの日へと誘う。その唐突な結びの上手さは、リチャード・リンクレイターならではだろう。
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