イワシ

マジック・ボーイのイワシのレビュー・感想・評価

マジック・ボーイ(1982年製作の映画)
3.5
グリフィン・オニールが礼服を飾る服飾店の前に佇むショットがベスト。夜、人気の無い店先、ウィンドウで見栄えする白と黒の衣装、ガラスに反射する通りの反対側のクラブのネオンサインと濡れた路面。着飾ったマジシャンの世界の一抹の寂しさがふっーと身に沁みる。

刑務所脱獄からの汚職の証拠を探す為の金庫破りの地道さが好ましい。顔と手とダイヤル式金庫の組み合わせを記す紙とペンのアップのみのストイックな画面の連鎖。脱獄を手助けする名も無き配膳係の一連のジェスチャーのスムーズさは劇中で披露されるどのマジックより鮮やか。

ラウル・ジュリアとの逃走劇にスリルはないが、むしろそれがガキ同士のどうしようもないすれ違いに見えて切ない。すべてが終わり朝を迎えたグリフィン・オニールが靴底に仕込まれたマジック用の花が飛び出し、気づかないまま路上から去る。摩訶不思議な魔術の夜の名残りのよう。
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