息をするように人を殺すイかれた殺人者・ベンと、そんな彼を追うカメラクルーを描いたモキュメンタリー映画。
てっきり真っ当なサイコ・サスペンスものかと思っていたので、冒頭で唐突にインタビューシーンが始まって驚き。言うなれば殺人鬼が「情熱大陸」に出たみたいなお話で、クルーもしれっと殺人現場を撮影しているし、当人のベンも撮られることにノリノリというかなり訳のわからない世界観。
ベンという男は殺人鬼でありながら話の分からない殺人マシーンというわけでも無くて、建築や美術、音楽に関してうんちくをベラベラと語りまくる博学な面や、クルーを食事に誘って断られて拗ねたりワインを飲みすぎてゲロを吐いたりする明日人間臭い面もあったりして、案外憎めないキャラクターだったりする。
…と観ている側に思わせておいて、唐突に残酷極まりないバイオレンス描写をぶち込んできて、こちらをどん引きさせてくるという完全なる悪意でもってこちらの良識を揺さぶってくるやり方がなんともいやらしい。そのあまりの酷さに"笑うしかない"という状況に追い込まれてしまうあたり、かなりねじくれたかたちのコメディ映画なのかもしれない。
フェイクドキュメンタリーの生っぽさとブラックが過ぎる露悪的なジョーク、こちらの価値観をぶん回されるようなトリッキーな構成が見事に絡み合って異様な個性を放つ傑作。
(2016.120)