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バグダッド・カフェ<ニュー・ディレクターズ・カット版>のTnTのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

 めっちゃ久しく見たけど、あの新鮮な印象は変わっていなくてよかった。荒涼とした大地に、おかしな人々。ジャームッシュとかカウリスマキみたいな、些細な日常への愛が詰まっている。「I calling you」の主題歌は、改めて今作品にどハマりしているなぁと実感した。wikiの「スナップ写真」の概要は、今作品を表すのに適している。「スナップ写真は、(省略)日常のできごとあるいは出会った光景を一瞬の下に撮影する写真」。アメリカの写真家ウィリアム・エグルストンなんかに似た雰囲気を持っている、そんな映画。

 ただ編集、ちょっとズタズタすぎな気がする。非常に独特なテンポである。ラジオの音、ピアノの音、缶を投げる音、ブレンダの怒鳴り声。どれもややノイジーだし、それは編集からも伺える。そのぎこちないテンポが、ある意味この登場人物たちのぎこちない距離感と共鳴していたりするのかもしれない。ちなみにラストも「なにその答え?」みたいな終わり方をする。そのちょっとずれたオフビートな感じを最後まで貫くという意味で、あのラストの変な落とし方はよかったんだと思う。あの結婚を素直に受け入れた時、そこにはアメリカ国籍になるというちょっとした政治性がわりこんできさえするはずだからだ。それをやんわり断り、ジャスミンは自分のペースを貫いたと言える。

 構図としては、結構アップが多い。こういうムード感を出すのって引きの画の方が絶対良いと思っていたが、結構寄りでも面白いものだ。特にそのアップの挟まれるタイミングの意表というか、またこれもぎこちない編集の話に通ずるものがある。でも、冒頭とかちょっと仰角が多すぎて気になった。

 色調も大胆。画面全部に色の加工をせず、グラデーションで半分だけ染めるという方法を多く取っている。うっすらと黄色のそれは、かなり大雑把に画面にかけられているが、不思議とそこまで雑味を感じない。妙なノスタルジーを感じさえする。やはりスナップ写真的な、フィルムの独特な色味の変色をモチーフにしていたりするのだろうか。あと今作品に感じるノスタルジーは、単純に自分の今作品の初鑑賞を思い出すと言うのが大きいところもある。

 オフビートな人々。皆んなの個性と個性がぶつかり合うし、濃い。見てて飽きない。それでいて嫌味に感じず、どこか愛おしくさえ思える。ジャスミンが最初ブレンダを見て、めちゃくちゃ偏見溢れる夢を抱くものの、そんな嫌味じゃないのはなんだろう。たぶん今作品は、人種やジェンダーで区切られず、平等にカリカチュアされているからだろう。それでいて平等に優しさを与えられている。そして彼らは次第に非日常的な日常に向かっていく。それはあのラストあたりでのマジックとミュージカルのシーンでもわかる。客も店員も誰も彼も歌う。フェリーニの「8 1/2」との関連性は少ないが、文字にしてみると共通点が多かったように思える。また、太った女性が主人公なのとか特にそうである笑。ジャームッシュ的だと思ったがフェリーニ的でもあるという、そりゃもう不思議な映画であった。

 お互いが打ち解けていく描写は、見ていて良いものだな。こういう理想を抱きたくなる。何か大きな赦しを与えてくれるというか、自分にとってほんとにアットホームな映画だった。「I calling you」は、この映画が私たち観客と繋がろうとする意思であったのかもしれない(逆も然り)。
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