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青春を返せのakrutmのレビュー・感想・評価

青春を返せ(1963年製作の映画)
4.5
殺人事件の犯人として逮捕され、死刑判決を受けた兄の無実を証明するために孤軍奮闘する妹を描いた、井田探監督のドラマ映画。

最近見た『その壁を砕け』という同時期の日活映画と、冤罪を晴らすという大筋は同じ。どちらの映画でも、冤罪を晴らそうとする女性を演じているのは、芦川いづみ。中平康監督の作品だけあって、映画そのものの出来としては、『その壁を砕け』のほうが上。サスペンス映画として、冤罪を証明していく過程がしっかりと説得力を持って描かれている。一方で本作は、深いプロットは用意されておらず、真犯人もすぐにわかってしまう。

でも、本作はそこに重点は置かれていない。無実の兄を助けることだけに人生のすべてをかける若い女性を描くことに集中しているのである。そして、監督のその期待に答えるべく、芦川いづみが渾身の演技を見せてくれる。上告が棄却されて死刑が確定したために母親は自殺をしてしまうし、それまで兄を待っていた許嫁の女性はお嫁に行ってしまう。控訴審まで弁護を担当した弁護士さえも、無罪にするための十分な証拠がないと、簡単に諦めてしまうのである。(ちなみに、この弁護士を演じたのが、まだ若き大滝秀治。その後に彼の代表作となる『特捜最前線』のキャラとは正反対なのが新鮮。)

文字どおり一人になってしまった妹は、バーなどで給仕をしながら、事件の関係者を探し出し話を聞きに行くという地道な捜査を進めていく。そんな力強くて神々しい女性を芦川いづみが演じるなんて、ファンにとってはたまらない映画である。芦川いづみの代表作として本映画が上がっているのを見たことはないが、本作は彼女の隠れた代表作と言って間違いない。ラスト近くの急な展開で、彼女の演じる代表的なキャラである病弱も出てくるので、一粒で二度おいしいとも言える。そんな理由から、いづみちゃんのファンとしては、『その壁を砕け』よりも本作のほうが評価が高くなるのである。

その他には、本作でも『その壁を砕け』でも、いづみちゃんの見方となる芦田伸介がいい味を出している。長門裕之は『その壁を砕け』では誤認逮捕をしてしまう刑事の役だが、本作では逮捕される側の兄という正反対の役を演じているのが、目立つところ。なお、井田探監督は当時の日活で活躍していた監督の一人で、目立つ作品を撮っているわけではないが、ザ・ピーナッツの『可愛い花』や和泉雅子の『こんにちは赤ちゃん』がまあまま有名みたい。日活を退社してフリーになってからは、TVドラマを手掛け、東京12チャンネルの人気お色気アクションドラマ『プレイガール』などを担当したようである。そんな中で、本作は井田探監督の代表作とも言えるであろう。

最後に、映画の終盤で兄に向かって妹が、好きな人がいると告げる場面がある。そんな人物は映画では一切描かれないので、とても唐突である。そこに近親相姦的な匂いを一瞬感じてしまったが、その後の台詞を聞くとそうでもないらしい。ちょっと不思議である。
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