イチロヲ

あらかじめ失われた恋人たちよのイチロヲのレビュー・感想・評価

4.5
厭世気分を滾らせているフーテンの青年(石橋蓮司)が、世間から虐げられている唖者のカップル(加納典明&桃井かおり)と接触する。全共闘以後のシラケを切り取っている、ATG謹製のヒューマン・ドラマ。

自己の思想を声高に主張する主人公と、自己の思想を胸のうちに秘めている唖者。その両者の立場を対比しながら、「人の世の不条理性」「議論すら消えた虚無的な世俗」を表現していく。

本作で映画デビューした桃井かおりが、「ひたすら耐えている唖者」の役柄を熱演。台詞芝居を披露せず、笑顔すら見せてくれないが、時代を象徴するカリスマ性がすでに芽吹いている(ちなみに本作の時点では、まだ男性経験ゼロだったらしい)。

ヌーヴェルヴァーグ調の演出に辟易させられるが、静と動の緩急が心地よく、ゲリラ撮影の妙を楽しむことが可能。全共闘を揶揄しているような俯瞰視点が刺激的であり、「その時代」を追体験するための、映像資料と言っても過言ではない。
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