パイルD3

ウェンディ&ルーシーのパイルD3のレビュー・感想・評価

ウェンディ&ルーシー(2008年製作の映画)
5.0
「ファースト・カウ」以来、ケリー・ライカート監督に完全に沼落ちしています。
時代と逆行するようなスロースタイルに、当初戸惑いましたが、この沼はハマると浅くない事に気づかされます。少なくとも私のような日々ボヤっている野暮人間にはグイグイ来ます。
気づいた時にはもう手遅れでしたので、このまま沼の底まで行ってみます。
で、本日は朝から長編3作目にあたる「ウェンディ&ルーシー」

かつてゴールドラッシュの拠点だったアラスカに小さな職を求めて、ルーシーという愛犬と車で旅しているウェンディ。
(ウェンディ役のミシェル・ウィリアムズが、役柄以上に美しいので、監督が2週間の撮影期間中は髪を洗わず、ノーメイクで通してくれと頼んだらしいくらいイイ感じの愛らしさ。)

オレゴン州に入って犬のエサを切らしたところから、車が故障、愛犬は行方不明、持ち金は底をつき始めるという不測のトラブルが相継ぎ、すっかり立ち往生する。
そんな立ち往生した若い女性の動揺と困惑、そして物言わぬ相棒ルーシーの姿を、デリケートな視線で見つめる。
(ルーシーは前作の「オールド・ジョイ」にも登場して好印象だったが、実は監督の飼い犬らしい。)

夢を求めて挫折と遭遇する流れは、ライカート監督が繰り返し描いているひとつのライフワークでもある。
夢の頂点でもあり、夢果つる場所でもあったアラスカを目指す現代の若者という構図がとてもいい。

監督は横スクロールのカメラ移動を毎回効果的に使う。ここではいつになく象徴的な使い方がされる。
ウェンディが、町に迷子犬の貼り紙をして回り、高い壁のある建物の前を通り過ぎる短いカットがある。
壁の上の方に“GONER“という落書きがあり、字幕では“終わってるヤツ“と出るが、よく運の尽きた者に使う皮肉なスラングで、主人公の必死で相棒を探す哀切な姿が目に残る。

幸不幸の上下動は誰にでもあるし、全てが都合よく決着がつくわけではない。面倒は時を選ばす転がってくるし、稀にあっさり交わせる事もある。
ウェンディは彼女なりの選択と方法で、ひとつの決着をつけるのだが、これには思わずグッときた。

年老いた駐車場のガードマンが、若い小娘の旅立ちを気遣い、やさしく振る舞う姿が忘れられない。クシャクシャのお札も胸を打つ。

と、あれこれ思い出していたら、自分のクシャクシャの身も心も、更に沼の深い所にハマり込んでしまったようだ。
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