このレビューはネタバレを含みます
Amazonで配信が開始されていたので鑑賞しました。ストーリー自体は単調で、長めの映画ですが、映像表現が自分の好みに合っていたので楽しめました。
特にライ・クーダーのスライドギターが印象に残りました。
トラヴィスがガラス越しに愛する気持ちと過去の行動を告解するシーンは、とても切なく胸を打ちました。
ナスターシャ・キンスキーの美しさは、トラヴィスの不可解な行動に説得力を持たせるのに十分で、彼女の存在感が物語に深みを与えていました。
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【シネマLog】「パリ、テキサス」―孤独と再生の旅
1.作品概要:
- 映画タイトル: パリ、テキサス (Paris, Texas)
- 監督名: ヴィム・ヴェンダース (Wim Wenders)
- 脚本家名: サム・シェパード (Sam Shepard)
- 撮影監督名: ロビー・ミューラー (Robby Müller)
- 製作プロダクション名: Road Movies Filmproduktion、20th Century Fox
- 製作年次: 1984年(西ドイツ・フランス・アメリカ)
- 日本公開年次: 1985年
- 音楽監督名: ライ・クーダー (Ry Cooder)
- 主演俳優名: ハリー・ディーン・スタントン (Harry Dean Stanton)、ナスターシャ・キンスキー (Nastassja Kinski)、ディーン・ストックウェル (Dean Stockwell)
2.監督素描:
- ヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)
- 生年月日: 1945年8月14日
- 主な経歴:
- ドイツ、デュッセルドルフ出身。
- 1970年代に西ドイツ映画運動「ニュー・ジャーマン・シネマ」の一員として国際的に注目される。
- 代表作『ベルリン・天使の詩』『ことの次第』で世界的な評価を確立。
- 主な代表作:
- 『ベルリン・天使の詩』(1987)
- 『アリスの恋』(1974)
- 『ことの次第』(1977)
- 『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999)
3.印象的シーン:
砂漠を歩くトラヴィス(ハリー・ディーン・スタントン)のシーンは、映画の中でも特に象徴的だ。彼の孤独感が広大な砂漠とともに映し出され、ロビー・ミューラーの撮影は色調や光の陰影を巧みに使い、トラヴィスの内面世界を視覚的に描写している。このシーンでは、無限に広がる空と乾いた大地の対比が印象的で、トラヴィスの再生への旅路を暗示している。
4.この映画のトリビア:
- ヴィム・ヴェンダースは本作で1984年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した。
- 脚本のサム・シェパードは、台詞よりも映像と音楽で語ることを強調したシナリオを書き上げ、台本の一部は撮影中に即興で追加された。
- 音楽監督のライ・クーダーは、映画全体を貫くギターの旋律で主人公の感情を表現。特にメインテーマは、乾燥したアメリカ南西部の風景と強く結びついている。
- トラヴィスが探し求める「パリ」はテキサスの片田舎にあるが、映画の中では象徴的な意味合いが込められている。
5.レビュー:
『パリ、テキサス』は、ヴィム・ヴェンダース監督の傑作として、観客に深い印象を残す映画である。物語は、主人公トラヴィスが失踪後に見つかり、彼の過去と再生の旅を描くものだが、その本質は「再会」と「贖罪」のテーマにある。映像、音楽、物語が絡み合い、静かながらも強烈な感情を呼び起こす。
この映画の中心にあるのは「空虚」だ。トラヴィスが歩むアメリカ南西部の荒野は、彼の心の中の虚無と重なる。家族との断絶、そして自らの過ちに向き合うまでの道のりは、観客にとっても彼の感情を追体験するかのように映る。広大な砂漠の風景が、彼の内なる孤独とともに描写され、視覚的にも感情的にも強く響く。
ロビー・ミューラーの撮影は、まさにこの映画のハイライトだ。広大な風景、光と影の扱い、そして静かな瞬間をカメラで捉える技術が、トラヴィスの内面的な変化を巧みに映し出す。ミューラーのカメラは、ただの風景描写に留まらず、感情の延長として機能している。特に、ライ・クーダーのギターが響く場面では、音楽と映像が絶妙な調和を見せ、物語にさらなる深みを与えている。
さらに、本作はキャラクターの繊細な描写にも秀でている。ハリー・ディーン・スタントンは、無口で感情を内に秘めたトラヴィスを見事に演じ、その静かな演技が観客に強い共感を呼び起こす。彼の表情や立ち振る舞いが、多くを語らずとも彼の抱える苦悩を明らかにしている。また、ナスターシャ・キンスキー演じるジェーンとの再会のシーンは、映画のクライマックスともいえるが、ガラス越しに語られる二人の対話が心に刺さる。
物語は極めてシンプルだが、その背後に流れるテーマは深遠だ。「家族」という概念が、ただ血縁によるつながりではなく、精神的な絆や贖罪、そして再生を通じて描かれる。この映画は、時に静かでありながらも力強いメッセージを持ち、観客に余韻を残す。
『パリ、テキサス』は、映画としての形式美と感情的な力強さを兼ね備えた作品であり、ヴィム・ヴェンダースのキャリアにおいても重要な位置を占める。砂漠の広がり、ギターの旋律、無口な男の再生の物語。全てが完璧な調和を見せ、観る者に忘れがたい体験を提供している。
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