くりふ

マッチ売りの少女のくりふのレビュー・感想・評価

マッチ売りの少女(1928年製作の映画)
3.0
【ファーストクラスの走馬灯】

U-NEXTで出てきたので。

そういえば、初期サイレント映画時代のルノワールはまるで見ていなかったので、よい機会でした。

美術の面から見れば、当時としてはエンタメ大作を狙ったものか?と思えて、興味深かった。

これは4本目になるのかな。監督はじめは、奥さんカトリーヌ・ヘスリングを女優にするため映画を撮り始めた…という認識で、オケ?

元々彼女は、ルノとーちゃんのモデルをつとめ、『ルノワール 陽だまりの裸婦』ではクリスタ・テレが演じた程度の美貌はあったと思われますが…。

これが初なので、他との比較はできませんが、本作でのカトさんは白塗りのオバチャンに見える。現代とは映像美の基準も、メイクや撮り方も違うけれど、美女だとは思えない。

この後、女優としては淘汰されたらしく演技もアレだから、本作が彼女のための映画と見ると…ちょっと、付き合いきれない。

アンデルセン原作の利用法は、興味深い。

執筆当時は動乱の時代。そして欧州全土が凶作にみまわれ、貧困層は死を待つしかない…という世の嘆きを、おひとりさまを貫く変人アンデルセンが、そのまま描いたのが原作童話だったらしい。

一方、父が大成した画家であり、不自由ない生活をし、奥さん主演の映画も好きに撮れたルノワール監督にとって、死ぬほどの貧困というテーマは理解できず、そのまま描けなかったのではと。

映画がコケて負債を抱えても、マッチならぬオヤヂの絵を売り、補填できちゃったようだしね。

本作の驚きは、ヒロインの末路は原作通りでも、マッチの火で灯る妄想が、チョー贅沢なつくりなコト!

彼女ひとりの願望を飛び越えて、特撮技術を駆使した冒険ファンタジーに仕立てている。貧乏人に、こんな想像力はありえないでしょ。www ここは原作の意図から大きく逸脱していると思う。

なぜ尺が40分近くもあるかと思ったら、そういうことか。でも、美術としてはすごくよく出来ていて、感心しちゃった。画面設計からして巧いしね。当時の観客なら、見惚れたんじゃないか。

さすが大画家の息子…と短絡的に言いたくもなりますが、現実を見たまま、絵の具も混ぜない色のままで描く印象派の手法は、カメラを通してそのまま描く映画の手法と、通じるものがあったのではと。

本作、(ヒロインは脇におき)レトロな美術品としては、現代においても歯ごたえあり、でした。

カトさんは当時28歳くらいで少女ではないし、後世に生まれた“マッチ売りの少女は売春婦?”説に倣う物語にした方が、ずっと面白くなったとは思いますが…まぁ当時では、それはムリだったことでしょう。

<2024.3.26記>
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