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第三の男のtakのレビュー・感想・評価

第三の男(1949年製作の映画)
5.0
映画の魅力に目覚めた中坊の頃。まだレンタルビデオもない時代だから、映画と名のつくものがテレビで放送されたら、時間の許す限り挑んでいた。特にNHK教育テレビの「世界名画劇場」でクラシック映画に触れる機会があったのは、今思えば貴重なこと。その頃に観たクラシックで、あるサスペンス映画に夢中になった。キャロル・リード監督の「第三の男」である。

このレビューが、Filmarksの通算1,700本目となるが、そう言えば1,600本目もクラシック映画のサスペンス「深夜の告白」だった。1,800本目はきっとヒッチコックだなw。ともあれ古いサスペンス映画は大好物なのだ。

オーストリアの民族楽器チターが奏でる調子のいい主題曲は、90年代からエビスビールのCMで使われてお馴染み。40本弱の弦が張られた箏やスライドギターに似た楽器。映画のオープニングでは、楽器を上から撮った映像が映るけれどもどうやって弾いているのだろう?と昔から疑問だった。You Tubeで検索したらアントン・カラスご本人の演奏動画を見つけた。ほぉー🤔長年の疑問解消w。

白黒映画だから際立つ光と影の演出は、何度見ても惚れ惚れする。有名なオーソン・ウェルズが登場する場面。物陰に隠れたハリー・ライムの顔が、部屋の明かりで照らされる。曲がり角に近づいて来る大きくて不気味な影、逃げるハリーと追う人々の影。ハリーを探す主人公ホリー・マーチンスが、ウィーンの街をさまよう場面でも、光と影が観ているこっちまで不安な気持ちにしてくれる。それはカメラのアングルが、街並みを映す時に常に傾いていたり、斜めのラインが映像に入るように仕組まれているのだ。駆け降りる階段も、英国の少佐がいる事務所も、ニッポンの劇画かと思えるくらいに斜めの構図が入って来る。クライマックスの下水が流れる地下トンネルは、もう迷宮のように見えてしまうのだ。有名な観覧車のシーンもその一つ。

そうしたテクニックの面白さだけでなく、脚本も見事。謎に迫るサスペンスとしての面白さはもちろん、ハリーの悪事を聞かされて裏切られた心持ちのホリーが、真実を知りたい気持ちと友を信じたい気持ちの狭間で葛藤する人間ドラマでもある。一方で、これは男と女のドラマでもある。ハリーの恋人だったアンナに情が湧くホリー。アンナが時々ハリーとホリーの名前を呼び違えたりするのも、ホリーのほのかな愛情をくすぐる。

ただでさえ緊張感が続く映画なのにユーモアも忘れないのもいい。そして映画史に残る最高のラストシーン。無言。渋いっ。カッコいいっ。英国少佐の部下を演ずる体格のいい男性は、後に「007」初代Mを演じるバーナード・リー。

初鑑賞は1982年、NHK教育テレビ「世界名画劇場」。大学時代、「市民ケーン」と二本立て(どちらもオーソン・ウェルズ×ジョセフ・コットン)を映画館で観る機会に恵まれた。2024年1月にAmazon Primeで再鑑賞。鑑賞記録は劇場鑑賞を記す。
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