ピュンピュン丸

第三の男のピュンピュン丸のレビュー・感想・評価

第三の男(1949年製作の映画)
5.0
名曲にのせて奏でられる、第二次世界大戦直後のウィーンを舞台にした人間模様。米英仏ソの四分割統治という複雑で厳しい現実を生き抜く、1人の女性の姿が切なくも凛々しく描かれている。

奇才オーソン・ウェルズが人間的魅力に富んだ裏社会の青年ハリー・ライムを好演。明るく自信に満ちた風貌が自然とその人となりを表現できていて見事だ。

しかし何と言ってもこの映画で印象的なのは、そのオーソン・ウェルズさえも食ってしまうほどの存在感を示す、まさに映画と一体になってしまったメロディだ。このメロディ、実際にウィーンの酒場でアントン・カラスがツィターで演奏していたのをキャロル・リード監督によって見出されたもの。

そして、もう一つ言っておかなければならないのは、光と影を効果的に用いた映像美。白黒であることをこれほど効果的に活かした作品を自分は他に知らない。特に夜の地下水路でのシーンはその効果を分弾に利用している。また、モノクロの映画が役者と音楽と光と影の織りなす総合芸術だとすれば、ハリー・ライム登場のシーンがまさにその極みだ。

主演はジョセフ・コットン。自分的にはいつもパッとしない役をやる、共演者を引き立てるのが上手い役者。この映画でもその真骨頂を発揮している(笑)。

アメリカの三流西部劇作家ホリー・マーチンス(ジョセフ・コットン)は、親友ハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)から仕事の依頼を引き受け、ウィーンにやってきたが、そのハリーは前日に事故で死亡していた。ハリーの死を不審に思うホリーは真相究明に乗り出すのだが、現場を見た人の証言から、現場に第三の人物がいたことを突き止めた。また、ホリーは次第にハリーの恋人だった女優アンナ(アリナ・ヴァリ)に心惹かれるのだった…

女性というものが、何をもって男を評価し、心奪われていくものなのかを考えさせられる。少なくとも、教科書的な社会的正義ではなさそうなのは確かだ…。

映画のラストはいつまでも心に残る名シーンだ。