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夕凪の街 桜の国のprocerのレビュー・感想・評価

夕凪の街 桜の国(2007年製作の映画)
3.9
 エンドロールを目の前にして、ぽろりぽろり・・・じわりじわり・・涙が止まりませんでした。こういう涙は初めてです、本当に。いかん、これでは照明が明るくなったら大柄の男が泣いてるのがばれちゃう、止めなきゃと思っても止まりません。決して多い涙じゃないんです。治まる気配なく、少しずつ、まるでこの映画を象徴するように静かに涙がこぼれるのです。でも観客席をたつ人は一人もおらず、みんな同じ状況なのが小さい鼻をすする音などでわかります。

 物語は原爆投下から10年後の広島に住む女性を主にしてすすみます。演ずるは麻生久美子。これは噂にたがわぬ素晴らしい演技でした。やわらかい広島弁で、声も姿も透き通るような清清しさがあります。本当に見事でした。これを主とする「夕凪の街」と、現代を舞台にした「桜の国」の連作となるつくりです。こちらの主演は田中麗奈。原作を読んだイメージから、彼女はまさにぴったりなキャスティングでしたが、やはり安心して観る事が出来ました。 

 「夕凪の街、桜の国」の原作はこうの史代さんの漫画です。ほのぼのとした絵柄の表紙で原爆をイメージさせない画風ですが、これが実に素晴らしい作品です。一分の隙もないほど完成されているのです。映画化ときき、これを映像化するのはとても難しいと思われましたが、一昨年大変話題になった「ALWAYS 三丁目の夕日」を参考に時代を大事に撮ったという佐々部監督です、期待は高まりました。原爆の映画というと、残酷描写などでトラウマになってしまうほどの作品が多い中、監督はそういった描写を避けた作品を作りました。これはおそらく原作でもいえることではないでしょうか。あとがきで原作者の記述にありました。ただ、リサーチを重ねて真実味のある作品にするように努力したことは、読み進む上でもわかりました。

 原作をとても大事にしたつくりですので、時間のとり方がゆったりと進みます。気になる方もおられるかもしれませんが、そういった作風の効果が、エンドロールでボディブローのように効いてとめどない涙を生み出したのではないかと思います。

 この作品を映画化してくれた監督に感謝したい気持ち、是非機会をもうけて皆さんもご覧になってみてください。

麻生さん、とても良い。
あの原作でのシーンが、
ここまで膨らむとは。
涙が止まらなかった。
実写化は原作大ファンの自分も
納得の出来でした。
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