不在

そして人生はつづくの不在のレビュー・感想・評価

そして人生はつづく(1992年製作の映画)
4.2
監督アッバス・キアロスタミが、以前撮影に使用した村が震災に見舞われたと聞いて現地へ取材に出向く。
しかし奇妙な事に、この映画に出てくる被災地は本物だが、キアロスタミは役者が演じている。
つまりこれは完全なドキュメンタリーではない。
言うなればイランの映画監督による、映画の解体ショーだ。

まず主人公のキアロスタミだが、彼は徹底して部外者として描かれる。
何故ならこれは彼の物語ではないからだ。
彼は震災に遭った人達を見つめるだけの単なる「目」に過ぎない。
この事から本当の主役は被災者達だという事が分かる。
そんなただの「目」である映画監督が被災地を撮影するというエゴや傲慢さをしっかり描いている点も評価できる。

しかしたとえ演出されていたとしても、ここに映っているものは全て本当の被災地だ。
だからこそこの映画が持つエネルギーは正真正銘本物といえる。
映画とは手段に過ぎない。
フィクションであろうがノンフィクションだろうが、メッセージを伝える媒体である事には変わりないのだ。
映画は作り物だとあえて明示する事で、我々は改めて映画とは何なのかを考えさせられる。
真実の中の嘘、嘘の中の真実。
どちらも真実になり得るという事。
彼はデリカシーのない悪者として自身を犠牲にして、被災した人々の真実を伝えてくれたのだ。
不在

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