安堵霊タラコフスキー

そして人生はつづくの安堵霊タラコフスキーのレビュー・感想・評価

そして人生はつづく(1992年製作の映画)
5.0
久々に見たけどキアロスタミは物の撮り方が頗る良いし実験的な試みも行なってるしで、自分にとって最も相性の良い映画監督の一人と言えるかもしれない。

震災の被害に遭った村をキアロスタミ(を演じる役者)が訪れるドキュメンタリーにフィクションを混ぜた映画となっていて、震災に見舞われて復興準備の段階にすら至っていない村の状況を生々しく撮っただけでも凄いというか、そもそもそんな状況の村に訪れようという行動力の時点で驚嘆。

必要以上にカットを重ねずに映像の雰囲気や音を駆使して魅せる手法も相変わらず見事で、特にロングショットのシーンはどれも美しく見応えのあるものばかりで感嘆する他無かったのだけど(中でもラストシーンには形容し難い感動を覚えて唸らざるを得なかった)、被災地の中でもこれだけ素晴らしいショットの数々が撮れるっていうのには畏怖の念すら覚える。

しかも途中で村人らにまるで本当に質問したものを撮ったようなシーンもあって、それ単体でも被災者の生の姿が映っているようで実に興味深かったが、それをフィクションと淀み無く繋ぎ合わせて連続しているように見せているのも凄い。

しかし本当のところはどこまでが被災地の様子そのままを映したものでどこからが演出したものかは定かでなく、ドキュメンタリー的シーンから急に演出をつけたとしか思えないようなシーンに移行する箇所も多々あったものだから、そういう意味でとても不思議な映画でもあり、どんな風に撮影されたのか最も気になる映画の一つだ。

自分は昔ダビングしたものを引っ張り出して見たけれども、日本でDVDを買うなら1万近くかかり、それでもそのくらいの値打ちはあると思うからダビングしたDVDがもし無かったら探して買っていたかもしれない。(でも海外だともっと安く買えるし英語字幕でも平気だからあるならそっち買うけど)

ところで途中見事なタイミングで鶏が鳴くシーンがあったんだけど、あそこをもし鶏が鳴くまで粘ったのだとしたらとんでもない拘りだ。