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ファイト・クラブのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ファイト・クラブ(1999年製作の映画)
4.3
 大手自動車会社のリコール担当の『僕』(エドワード・ノートン)は平凡な会社員で、高級コンドミニアムに暮らし、自宅にはイケアのデザイン家具、職人手作りの食器、カルバン・クラインやアルマーニの高級ブランド衣類などを買い揃え、物質的には何不自由ない生活を送っているものの、ただ一つ「不眠症」という大きな悩みを抱えていた。その症状は日に日に増す一方で、精神科医はあなたより大きな苦しみを持っている人は他にいると言って彼の病巣を真剣に探ろうとしない。そんなある日、『僕』は飛行機内で運命的な出会いを果たすのだ。石鹸の行商人タイラー・ダーデン(ブラッド・ピット)は陽気な男で、本気になれば爆弾でも何でも作れるのだと呟き、ほくそ笑む。『僕』が出張から帰ってきた矢先、自宅マンションはいきなり爆発で木っ端微塵となるのだった。

 不眠症の男は、消費文明を否定して生きろと呟くタイラーと共に「ファイト・クラブ」を開く。血まみれになるまで何度も殴り合い、傷つくことでしか己の存在証明が出来ない男は夜な夜な地下室に集い、狂乱の暴力に明け暮れるのだ。男たちの「力」への渇望はマゾヒスティックに己の肉体を痛めつけることで恍惚を得る。そうなると平凡だった昼の時間は退屈なだけの怠惰な時間に変わり、廃人のようになりながらひたすら休日を待つ生活になり果てる。『僕』という人間は物質社会に飼い慣らされ、去勢されたオスそのものなのだ。いかにもマッチョ的な魅力を振り撒き、メンヘラ女マーラ・シンガー(ヘレナ・ボナム=カーター)を「アイツはやばい」と連呼しながらベッドに押し倒す肉食系のタイラーの野蛮さに『僕』は文字通り魅了される。だが当の男は暴力の円環には満足せず、社会の転覆をも目論むのだ。マゾヒスティックな自傷行為はやがて全体主義的な自傷行為に様変わりし、静かにテロへと形を変えるのだ。

 ボブまたの名はロバート・ポールセン(ミート・ローフ)は最初に『僕』を抱きしめ、次に再会した時には同じ結社の一員であることに大いに共感する人物として登場する。そして物語の反転に繋がる「死」を運んで来るのも彼の重要な役割なのだ。マーラ・シンガー以外では最も重要な登場人物であるボブ役に、デヴィッド・フィンチャーがなぜミート・ローフをキャスティングしたのかはわからない。彼が単にいかにも不健康な肥満体系だったことは大いに関係しているだろうが、それにしてもボブの輝きはミート・ローフにとって一世一代の名演だったと言えるのではないか。最新の情報ではコロナだったという話もあり、しばし絶句する。あらためて1月20日に74歳で亡くなったミート・ローフのご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げます。
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