Tully

誰も知らないのTullyのネタバレレビュー・内容・結末

誰も知らない(2004年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

構想自体が優れていることは言うまでもない。2時間半にも及ぶ作品なのに、全く飽きることがなかった。映像に関しても様々な工夫がみられた。零れたマニキュアの染みや、茂がベランダに放り投げた土団子、赤いおもちゃのピアノなどに、映像はしばしばリカレントし、時間経過を表すとともに何処か 「センチメンタル」 な印象を与える。また印象派チックな音楽は作品全般にわたってユニークな雰囲気を醸し出している。舞台設定自体は極めてシンプルで限られているが、その中にうまく変化と統一感を与えることに成功している。高畑勲監督 「火垂るの墓」 が、戦時中に貧困にさらされた子どもたちの苦悩と悲劇を描いているとしたら 「誰も知らない」 は現代社会版のそれである。しかし 「火垂るの墓」 のときには、戦争をその原因として指摘できたが 「誰も知らない」 の場合には何を指摘できようか。教養のない奔放な母親か、経済力がない無責任な父親等か、若しくはこのような子どもたちを保護できない福祉行政か。そもそもこの子どもたちを不幸な者と見なしてしまうこと自体が、軽率な行為だと感じてしまうのは私だけだろうか。野球の一戦を塾のために逃してしまう子どもは、果たして不幸だと言えないだろうか。ここに 「誰も知らない」 が扱う問題を、映画だけのものとして放置できない所以がある。4人の子ども達は貧しいが、カップヌードルの鉢植えで育てる植物や、公園で過ごす一ときに喜びを見出すことができる。「勉強をしたい」 と願う向上心を持っている。高度に複雑化した社会において、何が正しく、何が幸せで、何が豊かなのか、この定義は実は曖昧である。大人の価値基準では測りきれない子どもの世界を、是枝監督は見事に描ききっている。彼の社会洞察力は作品に深みを添える重要なエッセンスだったに違いない。
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