IMAO

飛行士の妻のIMAOのレビュー・感想・評価

飛行士の妻(1980年製作の映画)
4.5
日本でインディーズ映画の神様というとジョン・カサベテスを想起する人も多いだろうし、それは間違っていないと思うのだが、エリック・ロメールだって同じくらい偉い、というかもっと前からインディーズ映画を撮ってきた名手だと思う。
何しろ彼の描く世界は小さくてせいぜい半径2キロ以内の話だし、大抵は女性が主人公で、その恋愛がどうしたこうした、という様な小話ばかりだ。でもそこにちょっとしたエスプリと、演技とは思えない様なナチュラルな会話劇が展開し、あれよあれよという間にノセられて観てしまう。この『飛行士の妻』にしたってちょっとわがままな女主人公に振り回される青年が途中高校生と出会って、女主人公の元恋人を尾行して…みたいなたわいない話である。今日本で作られている多くのインディーズ映画と大して変わらない様な感じさえするし、俺だってちょっと頑張れば出来るんじゃないか?と勘違いしてしまう。
確かに低予算で限られたキャストとスタッフで小さな話を撮っている、という意味では同じかもしれないが、彼と我々の間に決定的に違うものがある。ロメールには人の才能を見抜く力があったのだ。何しろ彼の映画に出てくる俳優のほとんどは彼がスカウトしてきた所謂「素人」だが、彼が書いた台詞をきちんと覚えて「演技」しているのだ。(彼の映画の芝居は即興の様に見えて、全て書かれてた台詞を演じている)良く言われることだが、俳優とは成るものではなく、俳優に生まれるのだ。ロメールはそうした生まれながらの俳優を見抜く才能があったのだ。それは俳優だけには留まらない。スタッフにしてもそうだ。彼の初期作品から撮影を何度かに渡り担当した、ネストール・アルメンドロスは彼の現場の前を偶然通りかかった所をカメラマンとして起用されたのだが、その後F・トリュフォーやテレンス・マリックなどとも仕事をする20世紀を代表する撮影監督となった。そんな少数精鋭の役者とスタッフを集めることができたのは、やはりロメールに天賦の才能があったからだろう。この映画も、そんな彼の才能の閃きに満ちた愛すべき作品となっている
IMAO

IMAO