チャン・イーモウの最高傑作、というだけでなく、中国大陸の映画としても最高傑作なのではないだろうか?ってくらいの名画。凄すぎる。久しぶりに映画観て震えたわ。
ストーリーはコン・リー演じる女学生スンリェンが、チェンという富豪の屋敷に第4夫人として嫁ぎ、そこで人間関係に巻き込まれていく、という大奥みたいなドロドロした噺なんだけど、もうね、画面が一々々々凄い。基本、ほぼ全編が屋敷の中だけなのに、まるでそう感じさせない世界。
最初のコン・リーが涙を流す顔のワンカットだけで、名作であることが確定してしまっている凄さ。この時点で、チャン・イーモウもコン・リーもどっちも勝ちよ。
シンメトリーな画面もさることながら、カメラの配置が常に気持ち良い。嫁入りしたスンリェンが初めて邸宅に入る冒頭の場面。あえてどのカットも、その場にいる人・あるものを総ては映さず、カットが変わる度に新たな発見が現れる。シンプルだけど、これは凄いことだと思う。
例えば、嫁いだ後、初めてチェン氏と関係を持ったスンリェンが夜中に独り、提灯を手に鏡の前に立ち、静かに泣くカット。彼女が流した涙が頬を伝い、顎の先で垂れているのが見える。何でもないようなカットだが、このカットなんかはあと少し明るすぎても暗すぎても撮ることができないものであることは明らかで、尋常ではない照明設計と相当な回数のテストを重ねたことが伺える。
嫁いだばかりのスンリェンが第1夫人から第3夫人まで全員と会う場面を見ると、彼女の行く末がこうなることを感じずにはいられない。各夫人のキャラクターも秀逸で、特に第3夫人の気難しくて傲慢なように見えて実はスンリェンを唯一思いやっているところなんかは結構興味深いし、演じているフー・サイフェイとコン・リーの美貌の対比が凄く活きている。
あと、スンリェンの侍女イェンアールを演じるコン・リンの、何だか夢に出てきそうな表情もヤバい。ただの無愛想ではなく、それを超えた禍々しさみたいなものを感じる表情が異様な怖さと迫力を放っている。
屋敷の主であるはずのチェンの姿が絶妙に映らないのも巧い。映ったとしてもアップは皆無で、その表情は一切伺い知れない。これを自然なかたちでやり続ける凄さ。
撮影も凄いが、音も凄い。夜の屋敷に響く足をマッサージする槌の音、提灯の灯を吹き消す轟々とした息の音、朝の空気の中で響き渡る歌声、乾いた足音など、かなり音で遊んでいて面白い。
中華圏の映画の例に漏れず、みんなで食べる料理が美味そうだが、献立名を読み上げる場面の字幕がただただ中国語の列挙で、どんな料理か全くわからず、映画館で爆笑してしまった。
イェンアールの部屋から人形が出てきてスンリェンがブチ切れるシーンとか、麻雀してる途中で足だけでイチャつく二人を見つけてしまったスンリェンのリアクションとか、ちょっと笑える場面もたくさんあるのだが、それ故に終盤の畳み掛けるような絶望と狂気、恐怖がとんでもない。あのラストはいつまでも脳裏に焼き付く。