SANKOU

X-MEN:ファースト・ジェネレーションのSANKOUのレビュー・感想・評価

3.9
改めてX-MENは、人間の差別と偏見をテーマにした作品なのだと考えさせられる。

思えば一作目も、人類史上最も残酷な差別による大量虐殺であるホロコーストの場面から始まっていた。
母親と引き離されたユダヤ人の少年が、念力で強制収容所の鉄柵をねじ曲げる。
その少年は後にマグニートーを名乗るエリックであったことが今作で明かされる。
彼は母親を殺された怒りにより能力を完全に開花させる。

X-MENのメンバーのルーツが明かされる興味深い物語だった。
裕福な家庭で育つチャールズ少年は、屋敷に忍び込んだ異質な少女レイヴンと遭遇する。
彼女は変身能力と青い肌を持っていた。
チャールズは自分と同じ存在に出会えたことに喜び、彼女を家族として迎え入れる。
これが後のプロフェッサーXとミスティークの出会いだ。

時が流れ、エリックは復讐のために母親を殺した男の消息を追っていた。
チャールズとレイヴンは大学でミュータントに関する研究を行っていた。
そんな折、セバスチャン・ショウを中心としたミュータントの集団が、人類を破滅させるべく恐ろしい計画を立てていた。
そしてこのショウこそが、エリックが追い続ける復讐の相手だった。

チャールズはCIAのモイラらと共にショウの野望を食い止めようとする。
やがてチャールズとエリックは運命的な出会いを果たす。
後にミュータント省の長官となるハンク、身体から赤い光線を放つハヴォック、口から高振動波を放つバンシーらが仲間に加わるが、襲撃を受けたことにより、環境適応能力を持つダーウィンは命を落とし、羽を持つエンジェルは寝返ってしまう。
そしてショウの野望を止めるという共通の目的のために共闘するチャールズとエリックだが、二人の想いが同じでないことも徐々に明らかになっていく。

自分とは異質なものを排除するか、それとも受け入れるか。
もともとの資質もあるが、人の思想は生まれ育った環境に大きく影響される。
チャールズは苦労もあったのだろうが、裕福な家庭で育てられた。
そして彼の能力はあまり見た目に影響しない。
そのために彼は人間と協調する道を選び、自分がミュータントであることに後ろめたさも感じていない。
一方、酷い仕打ちを受けたエリックは、人間と敵対する道を選ぶ。
彼は自分たちは人間より優れた存在であることを示そうとする。
皮肉にも彼の思想はショウととても良く似ている。
彼は自分がミュータントであることに誇りを持っている。

一方で見た目に大きく影響が出ているハンクとレイヴンは、ミュータントであることを障害だと捉えている。
後にレイヴンは自分の姿を受け入れていくが、ハンクは普通の見た目になることを望み続ける。
もし、彼が人と違うことに誇りを感じていれば、また違った道を歩むことになっていただろう。
ビースト誕生の裏にあったエピソードが、これほど切ないとは思わなかった。

この世の中から差別や偏見がなくならない理由を考えさせられる作品でもあった。
同じ物事でも捉え方によっては全く違う結果が生まれる。

後のプロフェッサーXやマグニートーの物語を知っているだけに切ない気持ちになる作品でもあった。
敵対することになっても、二人がどこか切れない糸で繋がっているように感じた理由も分かった。
ハヴォックやバンシーらがその後どのような道を選んだのか気になった。

シリーズを重ねるうちに深みは増していくものの、どこかもう一つ盛り上がりに欠けてしまうのは残念だ。
今回は一瞬だけの登場だが、やはりこのシリーズにはウルヴァリンが欠かせないとも思った。
SANKOU

SANKOU