このレビューはネタバレを含みます
正攻法な捜査だけで犯罪組織を撲滅出来るとは思わないが、おとり捜査はやはり非道なやり方だと感じてしまう。
正義のために捜査官一人の命を危険に晒し、家庭や生活を犠牲にしても良いものなのか。
危険な組織に潜入すれば、自らが危険な目に合うだけでなく、犯罪の片棒を担がされることもあるだろう。
目の前で行われる犯罪に目を瞑らなくてはならない場面もあるだろう。
そしていくら犯罪組織といっても、相手は生身の人間だから情が移ることもあるだろう。
この映画の見所はジョーとレフティが次第に本当の家族のように心を通わせていく過程にある。
ジョーはドニーと名を偽ってマフィアファミリーに潜入する。
最初は羽振りの良さそうなレフティも、出世には縁がなく、人情に厚いために損ばかりしている人間であることが分かってくる。
このアル・パチーノ演じるレフティがとても人間くさくて面白い。
一方、感情をあまり表に出さないジョーだが、彼は見事にドニーとジョーの人生を使い分けている
演じるジョニー・デップは自分を殺した演技の方が印象に残る。
ジョーには妻と娘が3人もいるのだが、当然任務については家族にも話すことが出来ない。
彼はダメな父親と妻になじられるが、さぞ歯がゆい想いをしたことだろう。
これが実話であるということにも改めて驚かされる。
やがて彼はレフティに肩入れすることによって、ドニーとジョーの人生の境界線を見失っていく。
見かねたFBIの連中は極秘任務であるにも関わらず彼の妻にすべてを打ち明け、彼女に作戦から手を引くようにジョーを説得させようとする。
しかし今作戦から手を引けばレフティは殺されてしまうだろうと、ジョーは彼女の言葉に耳を傾けない。
そしてジョーはレフティから極限の選択を迫られることになる。
レフティはおそらくジョーが裏切り者である可能性に気づいていたのだろうが、それでも彼のことを信じようとした。
いや、信じたいと思い込もうとしていたのだろう。
レフティが自らを小さな歯車のひとつだと例える言葉が印象的だったが、それはジョーにとっても同じことだろう。
二人の間には偽物ではない絆が生まれていた。
出会う形が違っていたなら本当の家族になれたかもしれない。
だから最後のレフティの「お前だから許せる」というジョーへの言葉が心に響いた。