ボブおじさん

友だちのうちはどこ?のボブおじさんのレビュー・感想・評価

友だちのうちはどこ?(1987年製作の映画)
4.1
素人の少年を主役にしてイランの人々の生活をありのまま映し出し、監督の名を一躍世界に知らしめた作品。日本でも公開時にちょっとした話題になった。

その日、帰宅した少年がカバンを開けたところ、間違って隣の席の子のノートを持ち帰ってしまったことに気づく。宿題をノートに書かなければ、その子が退学になってしまうとあわてた少年はこっそり家を抜け出し、遠い隣村に住む彼の家を探し回る。

たったそれだけの話なのに、この映画が心に刺さるのは何故だろう。

あらすじから想像したのはハラハラ・ドキドキの先にある〝ホッコリ〟だった。だがこの映画にホッコリは出てこない。代わりに終始出てくる感情は〝イライラ〟だ。

〝友達のうちはどこ?〟少年が行く先々で投げかける言葉に対して、大人はまともに答えてくれない。忙しさにかまけて少年を相手にしないどころか、ときに彼を理不尽に叱りつけさえする。

それでも少年はノートを届けるために、懸命に友達の家を探す。探しても探しても見つからず、辺りは次第に暗くなってくる。見ず知らずの町に取り残された少年の不安がこちらまで伝わってくる。

最後の結末は書かないが、友達を救いたいという少年の健気な行動には心が洗われる。だが、この映画は表面的なストーリーの裏に隠された隠喩が、いくつも描かれている。

プロフィールにも書いたが、映画を見る時はいつの時代のどこの国の話かを注視している。この映画は1987年制作のイラン映画だ。イラン革命後で言論も厳しく統制され、検閲も厳しかった時代だ。

そのことを踏まえて見るとこの映画の中には、いくつもの〝含み〟が埋め込まれていることに気がつく。

そもそもなぜあの道はジグザグなのか?
なぜ少年は2度もジグザグ道を登ったのか?
教師や親その他の大人たちの言動は何を表しているか?
友達の家が見つからないのはなぜか?
老人からもらった押し花が意味するものは?
老人はなぜ昔を懐かしむ話をするのか?
2階から落ちてきた洗濯物が意味するものは?
木の扉と鉄の扉が意味するものは?
宿題をやっている時に、風で扉が開いた意味は?

などなどそれぞれについて深い意味があるのかないのか?色々な深読みもできそうな映画である。

邪気の無い少年の無垢な気持ちに胸を打たれるも良し、歴史や社会情勢を学びキアロスタミが隠した難解なメッセージを紐解くも良し😊