けーはち

エレファントのけーはちのレビュー・感想・評価

エレファント(2003年製作の映画)
3.8
コロンバイン高校の銃乱射事件に材をとり、前半は他愛のない学生生活を散発的に、一瞬だけ物々しい装備を引っ提げて殺意に満ちた犯人二人の姿をチラ見せ、後半は犯人二人を中心に殺戮の模様を描く。

ホームビデオじみた縦横比の狭い画面で、様々な生徒の声や部活動の音が響き渡る学校という特殊な空間を長回し、パラパラと時系列・視点人物をザッピングし、あえて主人公を絞らせない。多種多様な見る者の学生生活の記憶を刺激し、身につまされるような感慨を去来させるのが狙いなのだろう。出演者の生徒は全員素人でアドリブ演技させたらしく全編に漂う生々しさはすごい。「グッド・ウィル・ハンティング」や「小説家を待ちながら」のようなハリウッドスターを軸にした横綱相撲的直球感動作で知られるガス・ヴァン・サント監督、実験作っぽい変化球も鋭いという懐の広さで、カンヌのパルム・ドールと監督賞をダブル受賞している。

放課後学校を散歩するカップル、部活に熱中する生徒、地味な図書委員、ロクにご飯も食べず体重と友達と男以外興味のないコギャルなど、十人十色のフワフワした日常の尊さを示してから落とす業前は見事。バスケでもやっていそうなイカつい黒人生徒がかなりの尺をとって強そうな雰囲気で登場しても、銃弾一発であえなく倒れるのも無情。結局のところ銃社会はダメ、という訓戒に回収されるが、自分の身に引き寄せる(と銃社会当事者でない日本人が言うのはアレなんだけど)訴求力のある一本だろう。