塔の上のカバンツェル

ワルキューレの塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

ワルキューレ(2008年製作の映画)
3.5
1944年のヒトラー暗殺未遂事件、"7月20日"事件を描いた、アメリカ資本の映画。

ドイツ人の映画なのに、全編英語なのはまぁ違和感はある。

ただ、戦後のドイツ人の精神性に大きな影響を与えたシュタウフェンベルクをアメリカ人のトムクルーズが演じたということで、ドイツ人自身には評判は悪かったけど諸々の横槍を回避できた側面はあると思う。
もし、これがドイツ人によって映画化されていた場合、依然として、内外からの批判は避けられなかったと思われ。

しかも、この映画は史実の深掘りを程々に、娯楽性をギリギリのラインで維持して、娯楽作品として完成したのはアメリカ商業映画ゆえだからこそ。

そういう意味で、"当時のドイツ人にも良心はあった"と世間一般に周知するには、実は1番コスパがいいルートだった気がする。

ただ、内容として一般大衆向けに耐えうるかというと、割と地味な作劇が続くのでどっち付かずな映画にもなってると思う。


この映画というか、実際の反ヒトラー派の手際の悪さや不運が重なる、"持ってない感"がとても際立ってくる。
反ヒトラー派でトム演じるイケメンのシュタウフェンベルクのみが孤軍奮闘してるようにしか見えない。

そもそも彼等の計画は、ヒトラー暗殺後に連合国と停戦交渉に応じるというものだが、1944年の正にその時、西方では"史上最大の作戦"であるオーバーロード作戦が目下進行中であり、東部では"電撃戦の最終完成形"であるバグラチオン作戦により、ドイツ軍数十個師団が文字通り消滅させられていたのに加えて、1942年のカイロ会談で無条件降伏以外応じないことを連合国間で確認しているので、彼等の終戦への見通しは甘かったというのが後世の評価である。

そういう意味で、彼等反ヒトラー一派の立ち回りは道化的とも言えてしまう。

しかしながら、取り返しの付かなくなる前に戦争を止めるという、ある意味認識が甘くも、純粋な動機から策謀を巡らす彼等らの、その抜けてる感も含めて、同情とも似た感情移入を少しは出来ると思う。

既に立ち上がるには遅すぎるにしても、それでも行動した彼等が、そして失敗し、シュタウフェンベルクらは死に追い込まれ、その他の者達は残虐な方法で処刑された。
その悲劇性に、本作の歴史物としての興味深さがあるのだと。

恐らく、ドイツ軍人をやらせたら右に出る者はいない、トーマス・クレッチメンが本作でも国防軍予備役将校役で登場。
ハリウッド大作デビューはこの辺からでは?

SS将校や、ドイツ高官を演じる機会の多い、クリスチャン・ベルケルも反乱側将校として登場。
「誰がため」「ブラックブック」などのドイツ国外資本作品にも多く登場し、1番知名度が高い「ヒトラー最期の12日間」で本作の数少ない良心のSS将校役が代表作。

結構、トム以外の脇をドイツ人が固めてる印象。

やっぱり印象に残るのは、ケネスブラナー演じるトレスコウ将軍だろな。

戦争モノとしては、序盤のアフリカ前線のシーンしかないけど、歴史好きには割と飽きないんじゃないでしょうか、本作。