アニマル泉

次郎長三国志 第二部 次郎長初旅のアニマル泉のレビュー・感想・評価

5.0
次郎長三国志の第二部。大傑作である。ハリウッドにフォードがいるならば、日本にはマキノがいる!躍動感あふれ、瑞々しく、アクションは素早く、歌って団結する、これぞ活劇だ!
冒頭の夜の捕物がまず素晴らしい。追手が続々と集まる緊迫感のなかで次郎長(小堀昭夫)とお蝶(若山セツ子)の祝言が密かに行われている。そして一家の旅立ち、つまりは正面突破だ。追手の包囲網に5人で飛び出す。縦道をダーッと追い込む、クルリと反転して一気に手前に走って逃げる。集団の縦の運動感が素晴らしい。
次の場面は見事な富士山と茶畑、女たちの茶摘み歌が歌われるなか、次郎長一家が旅姿で歩いてくる。「This is 股旅」の美しい場面である。しかし空を見上げると瞬く間に雲が現れて大雨になる。雨宿りのあとは再び富士山麓の川と橋、美しい光景で敵討ちが行われていて次郎長が仲裁する。増川の仙右衛門(石井一雄)とおきね(和田道子)を救ってやる。この一連のロケーションも素晴らしい。
次郎長一家は沼津の佐太郎(堺佐千夫)を訪ねるが傾きかけた料理屋だった。恐妻だがもてなしに工面する女房・お徳(隅田恵子)がいい。次郎長たちは佐太郎夫妻が無理してるのを察して歌って紛らわそうとする。この歌う団結が素晴らしい。まるでフォードやホークスのようだ。本作は次郎長が一家を成していく物語だ。映像的には一家のグループショットの描き方が肝要になるがマキノは実に上手い。手前に次郎長と大政(河津清三郎)がいて佐太郎が向かいに座ってその後ろに一家が立って囲むグループショットが美しい。時間経過で挿入される店表の縦の路地もいい。行燈に火が入る情景は上手い。草鞋銭を稼ごうと仙右衛門が佐太郎をそそのかして、みんなの着物を寝てる間に質草にして博打をするが、見事に身ぐるみ剥がされて夜明けに帰ってくる、次郎長一家も起きてみれば着物がなくて褌一丁、しかも冬、この一連の省略を効かせながらの捌きかたがマキノ流だ。全員褌一丁で、次郎長が仙右衛門に「お前は昔の自分みたいだ、堅気になって母親のもとへ戻れ」と諭す場面のグループショットがまた見事である。
沼津を後にして三島へ。みんな褌一丁の裸で「わっしょい わっしょい」と走り出すのが可笑しい。三島では次郎長が仙右衛門とおきねを添わしてやって欲しいとおきねの両親に頼み込むが父親(小杉義男)は許さない。そして青竹で仙右衛門を叩き始める。この場面がいい。店表の路地で仙右衛門を叩く父親を次郎長たちは止めずに見守る。やがて父親が叩けなくなって二人を許す。ワンカットのグループショットで描く。セリフではなく活劇で事態が収まる。これが映画なのだ。仙右衛門とおきねの別れの場面、二人泣き出すのが微笑ましい。空を舞う二つの凧が挿入される。二人が泣き出すと凧が絡むのが上手い。そして金平(林幹)一家との河原での大喧嘩。この場面、次郎長一家が6人、小さな輪に固まって構える、その周りを金平一家20人あまりが大きな円で囲む、双方が睨みながらジリジリと回転するのが素晴らしい。やがて斬り合いになる。この場面は石松(森繁久彌)の登場場面である。カメラは大喧嘩をオフにして石松を追っていく、これまたマキノ流の省略だ。次の茶屋の場面が石松と次郎長一家の出会いの場面だ。強いどもりなのだが口上と歌はスラスラと言える、刀を抜いたら殺陣は俊敏、森繁久彌がキラキラと輝いている。
ラストは再び富士山と茶畑、茶摘みの歌の中を次郎長一家が総勢7人になって歩いていく。空を見上げるとまた大雨、走り出してエンド。最後までお見事である。本作ではおきね、お徳、女たちがみんな勝気だ。強い女というのもフォードを思い出す。
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