たく

美しい庵主さんのたくのレビュー・感想・評価

美しい庵主さん(1958年製作の映画)
3.5
尼寺に訪れた世俗の男女との交流を通して尼としての自分の生き方に戸惑いが生じる女性を描いてて、芦川いづみの清楚さが際立つものの、特に禁断の恋が進行するわけでもなく、話としてなんとも中途半端な印象だった。題名が「庵主」となってるんだけど、本編ではあくまで庵主候補でまだ庵主には就任してないんだよね。

大学生の悦子が世俗の喧噪から逃れるため、ボーイフレンドの昭夫を連れて自分のおばが庵主を務める山奥の尼寺に遊びにくる。尼寺といっても宗教的な厳しい戒律はなく、尼さんたちが皆のんびりした感じなのがほのぼのするんだよね。やがて一人だけやけに清楚な昌妙尼がいることが分かり、昭夫が彼女に惹かれてるんじゃないかと悦子がやきもきする。話としてはこれ以上なにも起こらなくて、まあ世俗を断った尼さんの話だから当然そうなるよねって感じなんだけど、なんだか腫れ物に触る感じの筋書きがぎこちない。

昌妙尼は家族の口減らしのため幼い頃に尼寺に預けられた経緯があり、強い信念から出家したわけじゃないので、世俗の昭夫と悦子の二人を見て尼として当然思い描いてた自分の人生に戸惑いが生じるんだよね。このあたりは「黒水仙」で情欲から信仰心が揺らぐ尼僧たちのおぞましさを思い出したんだけど、本作の方はかなり柔らかい描き方だった。浅丘ルリ子と芦川いづみが世俗と超俗の正反対の世界を生きる存在として対比されてたのは上手かった。あと昭夫がオー・ヘンリーの「賢者の贈り物」を話すシーンで、以前に観た「人生模様」を思い出して一瞬テンション上がった。
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