明石です

人生万歳!の明石ですのレビュー・感想・評価

人生万歳!(2009年製作の映画)
4.2
頭は切れるけどプライドが高く嫌われ者の老人が、ホームレスの女の子との出会いを機に心を洗われていくお話。理論家で舌鋒鋭い老人と、お馬鹿だけど純粋無垢なホームレス女子との微妙に噛み合ってない会話が絶妙に面白い。

「他人を傷つけなければ人生何でもあり」がテーマの作品。 みたい2000年代以降のウディ映画にしては、キャストがいささか質素な気がしますが、その分脚本の良さが光ってる。なんだか隠れた良作を見つけた気分になりました。たぶん、そんなに隠れてないけど。

人の良心をまるっきり信じない老人と、人の良心しか信じない少女。老人の切れ味鋭い悪口も、少女のお馬鹿で寛大な心がスポンジみたいに吸収してしまう。いわば性悪説と性善説が真っ向から対立してる感じの構図なので、通常であれば水と油かもですが、ウディアレンのユーモアにより一級品のコメディに仕上がってる。言うなれば車と油。あるいは水と魚?意味わかんないですね。なんだかいつもレビューでウディ映画をベタ褒めしてる気がするけど、ほんとうに好きなので、、。

冒頭の10分間は主人公の聞くに耐えないご高説を延々と聞かされる。自分がノーベル賞級の知性を持つと信じて疑わない老人のご高説。なかなかに醜いものです笑。でもそこでドロップアウトしなければあとはどんどん面白くなる。ウディアレンのユーマアセンスは、登場人物がイノセントな悪口を言い合うシーンで特に発揮されてる気がする。これ以前の映画でここまであからさまな嫌われ者役を描けなかった分、この映画で溜まりに溜まった鬱憤、つまり悪口をいう才能を発散させてる感がある。だからこそ面白い。イノセントな悪口こそウディアレンの才能(だと私は思う)。

登場人物がカメラに向かって話しかける二人称的視点が印象的でしたが、なんだか「アニーホール」が思い出されて懐かしく感じた。最近何回目かの再視聴をしたばかりですがそれでも懐かしく感じた。たぶん最近のウディ映画じゃあなかなか見ないからかな。コンラッドの「闇の億」(地獄の黙示録の原作ですね)で将軍が「ホラー!ホラー!」と叫ぶシーン、あれがそのまま老人の口癖になってるのがほっこりしちゃいました。知性のある奇人ってなんだかんだ魅力的に映ってしまう。ウザくても嫌いになれない笑。

それにしてもこの時期のウディアレンは前に多作かつ豊作ですね。本作の前年に「恋するバルセロナ」を、後に「恋のロンドン狂想曲」や「ミッドナイトインパリ」を撮ってる。他作すぎませんか笑。しかもどれも甲乙つけがたく良作。ほんとうにすごい人。才能が青天井なんだろうなと思う。

いやあ、面白かった。登場人物が皆1人残らず浮気するところはいつもの筋書きですが、まさかの最後は皆が幸せになるというハッピーエンド。これも悪くない。そしてウディアレンの映画があらためて好きだと気付かせてくれた作品。まだまだ書きたいことは無数にあるけど、そろそろ手が疲れてきたのでこの辺で失礼。
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