映画大好きそーやさん

トニー滝谷の映画大好きそーやさんのレビュー・感想・評価

トニー滝谷(2004年製作の映画)
3.5
トニー滝谷の人生を通して描く、段階的な孤独と逃れられない宿命。
村上春樹の短編小説を映画に落とし込んだ本作ですが、市川準監督の脚色が光りに光った良作だったと思います。
ただ映画として観るとダサさというか、演出に陳腐さを感じる部分も多かったです。
小説を忠実に映像化と言えば聞こえはいいですが、結局のところそれを先行させ過ぎて映画としての面白さが薄味になっているようにも感じられました。
小説で言う地の文をモノローグ、語りとしてそのまま読ませてしまうのも、心に傷を負った演出にガラスが割れるインサートを挟み込むのも、正直言って芸がないです。
せっかくの繊細な坂本龍一の劇伴や、豊かで味わい深い村上春樹の原作が台無しとまではいきませんが、水をぶっかけられたように勢いをなくし、一気に味気ないものになってしまっていたように思われました。
根幹のテーマ性はとても好みです。それこそ文学といった具合に、孤独についての掘り下げがかなり奥深くにまで及んでいて、確かに寓話的にもみえますが寧ろそこにこそ村上春樹の哲学があるように思えて、とても興味深い内容でした。
一言に孤独と言っても様々な側面が眠っていて、環境が、人間関係が、時間が、物が、と挙げ出せば切りがないほどに、多面的な見方をすることができます。
それらがトニー滝谷の半生に重なることで生まれる根源的な寂しさやある種の絶望によって、刻々と観客を孤独の沼へと引きずり込んでくるのです。
その過程の身に迫る心苦しさたるや、計り知れるものではありません。
また、原作にない描写が幾つか見受けられ、主に冒頭とラストのシークエンスは本作と原作の両方に触れた人が特に言及したい箇所になるでしょう。
それぞれの追加された、あるいは変更された描写における、キャラクター性の増強や物語としての再構築、再解釈の部分は原作の持ち味を殺すどころか、更に重層的なものにしていたと思うので、その点に関しては高く評価したい部分です。
総じて、映画として勿体なさ、物足りなさは感じるものの、作品の描き出したテーマ性に考えさせられた作品でした!