みほみほ

ストレイト・ストーリーのみほみほのレビュー・感想・評価

ストレイト・ストーリー(1999年製作の映画)
3.9
🌅2023年209本目🌌(字幕)

「ブルーベルベット」と重なる冒頭に不安を彷彿とさせるも、見えてきたのは人生の終盤に差し掛かった男の哀愁と深みでした。

何かに縛られ、怒りや憎しみ、もしくはそれをぶつけられずに封印してやり過ごす事で生きている人は多く居ると思う。私もその一人だ。

しかし本作を観ていたら、いつかはまたどこかで分かり合えるかもしれない。 たとえ分かり合えなくとも、許し合うことはできる。と感じられたし、人生を重ねていく上で到達する境地のその先に生まれる、長い時がもたらす和解からアルヴィンの人生の重みが一気にのしかかってきて、訳も分からず涙が出てくる場面も多くあった。

時間が解決するという言葉には否定的だった自分だけど、人生という大きな枠で考えたら 本当に時間が解決することもあるのだなと感慨深さに包み込まれるし、今はダメでもひょんなことから流れが変わる事もあるさと背中を押されたようで、少し心が軽やかになった。

まだまだ自分なんぞ、アルヴィンからしたら赤ちゃんだ。そう思うと、がんじがらめになり もがき苦しむ今の自分もいつかは笑い飛ばせるのかな。

傍から見たら普通のおじいちゃん。しかしその人が背負ってきたものや、人生の節々に何が起きたかを知れるきっかけなんて、そうあるもんでもない。

途中まで自分は、車に乗せてもらえば良かったのに…なんて思っていたけど、少しずつ進んでいく先にアルヴィンの想いが見え隠れしてくる度に、自分の意思で決めた事だからこそやり遂げる事に意味があることに気付かされ、アルヴィンの旅路を見守りながら自分の人生をも導かれているかのような思いに浸っていた。

ロードムービーは大好きだけど、日本に置き換えると広大な大地とかひたすら真っ直ぐな道がそんなにないし、路上で焚き火やら野宿も現実的じゃなく直ぐに通報されてしまうし、高齢者一人の自由をどこまで尊重してくれるかも難しいけど、こんな風に人生の終盤戦で自分の心残りを晴らせる人が多く居たらいいのにと感じました。

これから街でおじいちゃんおばあちゃんを見かけた時に、か弱い者みたいなイメージではなくその人の人生に興味を持ちたくなる想像力をくれた作品でした。自分も長生きすればいつか老いが来て、人生を見つめ直した時に怒りの理由など急にどうでも良くなることがあるかもしれない。生きるのも悪くないなとアルヴィンから教わりました。

デヴィッド・リンチが見せてくれる情景はあまりに綺麗で、アルヴィンの心情を投影している映像の数々が印象的でした。朝焼けも夕焼けも、星空も雷も麦の穂も全てが良かった。

雷と言えば自分の中ではフランク・ダラボン×スティーヴン・キングの映画のイメージが強いけど、本作の随所に使われる雷のインパクトが素晴らしくて、アルヴィンのシュールさと哀愁との対比として抜群に良かった。

娘ローズのキャラクターも好き。ローズとアルヴィンの電話のやり取りは微笑ましくて面白かった。アルヴィンの優しさ、ローズの真っ直ぐさが染みる。

一つ私へのビッグサプライズがあり、なんと……!𝑩𝑰𝑮エドの登場!ほんの少ししか出演してないけど、本作の中では登場人物がそう多くないのでインパクトに残るエドの姿でした。「ツインピークス」を意識しての配役なのかは分からないけど、自信もって自分が整備して使ってたものだから大丈夫!と言えるキャラクターがエドらしくて誇らしかったな〜。

本作のラストに、
「アルヴィン・ストレイトに捧ぐ」と書かれていたので気になって調べたら、NYタイムズに掲載された実話を基に作られた作品のようでした。
実話ベースと思って観ていなかったので、こんな展開映画でしかないよな〜とか薄々思ってた自分が恥ずかしくなりました。

そうなるともう込み上げるものが止まらないし、悪い人も多いけどその分良い人も多いことに気付かされる。自己防衛を考えると あまり人を信用し過ぎても恐ろしいけど、不思議な巡り合わせで人生って動き続けるのだなとしみじみ感じました。

なんで同じ毎日を繰り返して生きなくてはならないんだろと思うこともありますが、この映画はそんな気持ちの救いになってくれる作品でした。疲れた時にそっと見てみると、ひょっとしたら何かヒントが貰えるかもしれません。
みほみほ

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