ユースケ

プロメテウスのユースケのネタバレレビュー・内容・結末

プロメテウス(2012年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

リドリー・スコット監督の【エイリアン】の前日譚をリドリー・スコット監督が自ら描いた本作は、あのスペース・ジョッキーは何者なのか?あの馬蹄形の宇宙船はどこから来たのか?あのエイリアンは何のために作られたのか?など、全ての謎の答えが明かされる解明編…ではなく、物語のタイトル【プロメテウス】と物語の舞台である惑星LV-223が示すようにヒューブリス(傲慢、思い上がり)について描いた一本…なのですが、暗示が難解な上、傲慢を象徴するウェイランド社長が思い上がるシーンとエンジニアとの対話シーンの削除によってテーマが伝わらないどころか、意味不明に…

目的もわからずに未知の惑星に向かい、ロケハンもせずに未知の建造物に乗り込み、空気があるとわかれば直ぐにヘルメットを外し、地図があるのに道に迷い、未知の生物を発見すればいじり倒す調査隊はポンコツだし、クライマックスの墜落した馬蹄型の宇宙船が転がってくる方向にひたすら逃げるシャーリーズ・セロンがぺっちゃんこにされるドリフのコントみたいなシーンには唖然とさせられましたが、そんなグダグダな展開を忘れさせる稀代のビジュアリストであるリドリー・スコットの作り出す壮大で重厚な映像は必見。
H・R・ギーガーのデザインを再現した巨大なピラミッドや馬蹄形の宇宙船、ホログラムで映し出される幻想的な太陽系儀やエンジニアの姿、そして、トラウマ必至のエイリアンを摘出する開腹手術や人間バーベキューなど、とにかく、美しい。

更に、魂のないアンドロイドの中に創造主である人間に対する怒りや憎しみを感じさせるマイケル・ファスベンダー演じるアンドロイのデイヴィッドのキャラ立ちも素晴らしい。
父親に存在を認めてもらえない望まぬ生を受けながらも、神が与えた運命に立ち向かう【アラビアのロレンス】の主人公のトーマス・エドワード・ロレンスに憧れて髪型や話し方をモノマネするシーンやホログラムのエンジニアに触れて髪の毛がファッサーってなるシーンはたまりません。

オープニングでは人類を創造するエンジニアの姿を描いて神の存在と創造論を肯定し、エンディングでは進化論そのものであるエイリアンにぶち殺されるエンジニアの姿を描いて神の存在と創造論を否定する無神論者のリドリー・スコットらしいシニカルな視点も要チェック。

度重なる脚本の書き直しによって、本編だけではテーマが伝わらない難解な作品になってしまいましたが、様々な考察を加えたくなる魅力に溢れた作品だと思います。詰め込み過ぎって最高ですね。

ちなみに、脚本家のジョン・スペイツが最初に書き上げた【エイリアン エンジニアズ】の脚本によれば、エンジニアが創造した人類を根絶しようとした理由は、2000年前に人類を指導するために地球へ向かった最後のエンジニア=キリストが人類によって殺害され、人類を邪悪な存在とみなしたためだそうです。

最後に、初鑑賞時の考察を書き残しておきたいと思います。
エンジニアが人類を創造した目的は彼らが開発した兵器の威力を実験するためだった。彼らは自分たちの住む環境に近い惑星を選び、自分たちと同じDNAを持つ生物を繁殖させ、兵器の威力を実験をしようとしていたのだ。つまり、エンジニアにとって地球は実験場であり、人類はモルモットだったのだ。本作はエンジニアという上部構造の存在を知らず、我が物顔で地球の支配者として君臨し、単なる武器商人宇宙人を神と崇める人類の愚かさと虚しさを描いた作品だったのだ…見当違いでした。

プロメテウス…ギリシア神話に登場する巨人の神。主神ゼウスの反対を押し切り、天界の火を盗んで人間に与えるも、その代償として大鷹に肝臓を食われ続ける罰を与えられる。
LV-223…旧約聖書のレビ記22章3節。その内容は「礼儀を逸して神に近づいてはいけない」という教え。