Habby中野

自分の穴の中でのHabby中野のネタバレレビュー・内容・結末

自分の穴の中で(1955年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

不可抗力か呪いかはたまた身から出た錆か、不幸にもありとあらゆるものーモノ、人、場所、術をー失ってしまった女は絶望のあまり涙する、のではなく火を焚いて「家」を燃やしてこちらの、さらに向こうを見つめる。
人ひとり、それ以外のなにものでもないその人自身とは、一体なんなのか。ゆるやかな堕落の線を描きながら、一つ一つ周りのものを憎みながら哀れみながら解き離していく。彼女が最後に見つめた、この私の向こうには、一体なにがあるのだろう。
居間、自室、兄の部屋、台所、宿、キャバレー、電話ボックス、防空壕。最低限のカットで室内を舞台化ーいや"穴"化させる。そしてほとんど全編にかかるスコアーそれはオーケストラやラジオ、オルゴールに琴やピアノ、工事音。多くがその舞台上で奏でられる。
内田吐夢だから、と一言には言いたくないが、まさに文学的な、文字的な表現をそのもの以上に映像で押し上げた、哀しく力強い文芸映画。
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