父母ともに癌

絞殺の父母ともに癌のレビュー・感想・評価

絞殺(1979年製作の映画)
4.0
母親がスキンシップしてくる問題って思春期に経験した人間も多いと思うんですけど、それが主題の映画なのかもしれないと思った。あれに対する動揺が、みてる間にフラッシュバックしてきて妙にはずかしい気持ちになった。

本編中で「息子が父を憎み、母を思慕する」というエディプスコンプレックスが家庭を崩壊させた、というような描写があるけれど、このエディプスコンプレックスは乙羽信子演じる母親の過度なスキンシップが起点となっていて、そういう意味では息子に母を思慕させて、父を憎ませ家庭内暴力に走る息子を作り出したのは母親なんだと思うし、そのことに親近感すら覚える。恐怖。

あの頃の、母親からのスキンシップを受け入れていた自分の未来線みたいなところを想像すると怖気がするし、この映画は想像をさせる。

家庭内暴力の描写は、若者がバットを振り回したり親をどつきまわしたり。父親の老いがそれらの行為を防げないのだけれど、その防ごうととするけど防げない父親、を西村晃が見事に演じている。
好きなシーンは、寝室に息子が殴り込みに来て布団から這いだして、嫁の乙羽信子が息子にとりすがる間に一人逃げ出して床の間の隅にうずくまるシーン。あそこで完全に息子に対する権威というか、マウンティングを芯から失ったような気がする。強健的な父親の肉体的な弱さに対する自覚と己かわいさ、みたいなところが。
序盤の押し出しが強い、人の気持ちを斟酌しない、ある意味ギャグ化したようなクソオヤジ像とのギャップも効いている。
終盤、家に戻ってきてからの態度とかも、よくそれをできるなオッサン、みたいなオッサンを上手くやっていた。

結局展開としてかなり陰惨な話になっていくのだけれど、そういう陰惨な状況に一家が陥る際にかなり「大きい音」を物理的にたてることになる。
この大きい音に反応した物見高いご近所連中、これをかなり戯画化して描いていて、張りつめた緊張感の小休止にはなるのだが、彼らの親切な言動とは相容れないような物見高い態度に不気味さが増していく。路上で乙羽信子と西村晃が喧嘩してる時嬉しそうに笑ってるおばはんまでいた。
このご近所連おじさん3人おばさん3人なんだけど、おじさん連中のキャラクター、顔が全員すばらしい。殿山泰司は下品なハゲ、草野大悟のアウトロー猿顔、小松方正の嫌みな顔。この3人のキャラクターが濃い濃い。
こういうわき役が立っている映画はみていて楽しいし、結局そういう人たちの活躍が心に残ってしまう。

午後の遺言状が面白かったので、この監督の映画を見てみようと思ったけれど、午後の遺言状でのユーモアみたいなものも、こういう人間の心の動きとそれに伴う行動の変化に対する興味、みたいなもので編まれていて、それが暴力描写として表出するか、ユーモアとして表出するか、そういう違いなんじゃないかと思う。
面白い映画だった。
この息子役の人、すごく良かったけど、今はあんまり役者はされてないんですね。残念。
父母ともに癌

父母ともに癌