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ボブ・ディランの頭のなかのshxtpieのレビュー・感想・評価

ボブ・ディランの頭のなか(2003年製作の映画)
2.5
“Truth and beauty are in the eye of the bholder. I stopped trying to figure everything out a long time ago.”(「真実と美は見る者によって異なる。俺はとっくに答え探しをやめた」)

じつにディラン的な箴言で、この映画は締めくくられる。

『ボブ・ディランの頭のなか』とは、なかなかひどい邦題だが、原題は“Masked and Anonymous”。中南米の独裁国家を思わせる謎の国を舞台に、刑務所から釈放された歌手ジャック・フェイト=ボブ・ディランがチャリティコンサートをおこなうために準備を進める、という筋書き。脚本はディランとラリー・チャールズ監督。

キャストがやけに豪華だ。粗野なジャーナリスト役のジェフ・ブリッジス、わけのわからないオカルト信仰者っぽいペネロペ・クルス、借金苦の山師ジョン・グッドマン、荒々しいジェシカ・ラング……。なんだかよくわからない端役でヴァル・キルマーが出ているのには笑った。さらに、ミッキー・ロークまで。バンジョーを抱えてブラックフェイスで一瞬登場したエド・ハリスは衝撃的だった。

はっきり言って、そうとうにめちゃくちゃな映画である。せりふは時折、ディランの詩のようになり、意味をなしていないことが多い。ドラマも破綻しきっており、設定なども活かされていない。悪ノリである。まあ、「ふつうの映画」を期待して見る類のものではないので、好事家向け、つまり、ディランのファン向けといえば、そうでしかないのだけれど。

ディランのジャーナリスト嫌いは一貫しているのか、関係のないはなしを延々と続けるジェフ・ブリッジズのキャラクターは、惨憺たる最期を含めて、ディランのジャーナリストへの呪詛の擬人化のようだ。『ドント・ルック・バック』や“Ballad of a Thin Man”の頃からまったく変わっていない。

ディランの映画といえば、『レナルド・アンド・クララ』から『ハーツ・オブ・ファイヤー』まで、今となっては見られないものも多い。この“Masked and Anonymous”も、そうなりつつある? むべなるかな。

ただ、私はこのめちゃくちゃな感じがきらいではない。ライブシーンの絶妙な角度から写してバンドを切りとったショットが好きだ。ビデオカメラで撮ったという画調も、安っぽくなく愛らしい。なにより、ディランの演技が笑える。

ちなみに、ディランは、実際には22曲もコンサートシークエンスのために演奏して、それらすべてが撮影されているらしいが、DVDの特典映像を含めても、全編を見ることはできない。惜しい。

真心ブラザーズの「マイ・バック・ページズ」に始まり、ディランのカバーが映画を覆っている。全体的に、映画の世界に合わせたのか、ラテン系のものが多く、テックスメックス的なノリが強い。ディランのトリビュート映画として見ることもできる。ディラン・バンドの演奏も前のめりなもので激しく、アルバム『トゥゲザー・スルー・ライフ』(これは音楽を提供した映画が、日本で見ることができない)につながっていきそうなムード。近年の枯れきった音楽世界とはちがって、おもしろい。
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