TAK44マグナム

Dr.ギグルスのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

Dr.ギグルス(1993年製作の映画)
3.4
退院はさせないぞ!


自分のことを名医だと思いこんでいるキチガイの偽医者が「痛くないからね〜♪」と言いながら、とっても痛い施術を無理やり行うスラッシャーホラー。

「giggle」とは「クスクスと笑う」という意味らしく、「ドクターギグルス」と呼ばれていた精神病院の患者が脱走して、凶行を繰り返す様を描いています。
殺人ドクターを演じているのは「ダークマン」で悪党役だったラリー・ドレイク。
本作でもやたらキャラクターがたった殺人鬼を演じていますが、特徴的なのが「ウヒヒヒヒヒ・・・」という、楳図かずお先生も真っ青な不気味で不快な笑い声。
「ジョーカー」での、ホアキン・フェニックスの笑う演技がアカデミー賞ものだと絶賛されていますが、だったらラリー・ドレイクのキモい笑いにもオスカー像をおくるべきだったと思います!

共演者はホリー・マリー・コームズ。
「チャームド〜魔女三姉妹〜」でアリッサ・ミラノ、シャナン・ドハーティと共に三姉妹の次女を演じてスターになった女優さん。
監督のマニー・コトは、後に「24トゥエンティフォー」のプロデューサーになり、爆発的ヒットに貢献した人物。
音楽担当は「マッドマックス」のブライアン・メイ。
ホラー映画にしては、おどろおどろしさよりもエモーショナルで荘厳な楽曲が多い印象です。
また、血液のようなタイトルデザインも見もの。


かつて町の名医だった父を持つエヴァン。
しかし、妻の心臓病を治そうと患者の心臓を勝手に取り出して移植実験を繰り返していた父は人々に袋叩きにされ、殺されてしまう。
35年後、孤児となったエヴァンは精神病院にいた。
狂った彼は自分を医者だと信じ、精神科医たちをバラバラにして逃走、密かに生まれ故郷へと帰ってきた。
未だ幽霊屋敷として残る我が家で暮らし始めるエヴァン。
彼は街の人々に復讐しようとしていた。
父の診療施設を復元したエヴァンは、形見の診療バックを手に、次々と御近所さんを「治療」してゆくのだった。
やがて、心臓に病を持つジェニファーという少女を知ったエヴァンは、彼女を治せるのは自分しかいない!と、禁断の心臓移植を成功させようと躍起になるのだが・・・


身体を切り刻むぐらいしか医療のいの字も知らないオッサンが白衣で出回って勝手に不法侵入、手当たり次第に治療と称して人々を殺害してゆくのを延々見せられる楽しい作品。
鼻から棒状の器具を突っ込んだり、開頭用ノコで切りつけたり、血圧測るエアクッションを首に巻きつけて窒息させたりと、一応は医者っぽい殺し技を披露。
殺した相手は待合室にコレクションしてゆくのでした。
しかしそれほどグロいってこともなく、92年の作品ではありますが、いかにも80年代のスラッシャー風味。
グロいのは心臓を抜かれた死体ぐらいです。

前半は普通のスラッシャーって感じで特に可もなく不可もなくですが、標的をジェニファーに絞ってからは面白くなってきます。
主な大きな見せ場は、遊園地の鏡の間での追いかけっこですね。
ここは定番の「燃えよドラゴン」を意識した演出で、かなり凝っていて楽しい場面でした。
逃げるジェニファー、追うエヴァン、そしてジェニファーを逃がそうとする彼氏がたくさんの鏡に姿を映しながら接触することなく近づいたり遠ざかったり、幻想的な名場面。
エヴァンの笑い声が本当に気持ち悪い(汗)

他にも、死体を切り裂いて出てくる場面(「ノー・ワン・リブズ」の元ネタ?)の狂気加減は見事。
ここはちゃんと怖かったです。
精神病院で繰り広げられるオープニングも掴みとしては、不穏な空気とユーモアが同居していて良い仕事しています。
あと、ベタですが最後の攻防も、いかにもスラッシャーって感じで好きですね。
充電しないで電気ショック使えるのかな?とか思いましたけれど。
そういえば、最後の最後にエヴァンが自分で考案したというゴツい医療器具をたくさん出してくるんですけれど、あんなデカいのがいくつも鞄によく入ったなという疑問は置いておいて(苦笑)、あれらを最初から使っていたら眠い前半ももっと面白くなったように思えて残念。
刺したり、切り裂いたりに特化していて、どう見ても普通の医療器具じゃなくて単なる凶器でしかないんですけれども(汗)、ああいう狂ったガジェットをもっと活かして欲しかったです。


何にしても、ラリー・ドレイクの風貌と怪演が本作のアイデンティティといっても過言ではないでしょう。
ブラックジャックみたいなセルフ手術中であっても、終始「フヒ、フヒヒヒヒヒ・・・」と痛がりながら笑っているジョーカー具合がもうツボ(笑)
一応、彼にとってはどれも治療なので、聴診器をあてたり、舌の腫れを検査したりと医者っぽく振る舞うのも一周まわると可愛く見えるのも不思議な魅力です。
まぁ、頭がおかしいだけなんですけれど!
彼が治せないのは、二階で兄貴が殺されていても気づかないぐらいに無我夢中でドクターマリオをプレイしている少年ぐらいなものなんですよね。
「(ゲーム中毒で)手遅れだな」って言っていたし(苦笑)

凡百のスラッシャーホラーの域を出ていないのは残念ですが、イカれた殺人ドクターのキャラクターがアホみたいに気持ち悪いのは買い。
展開は乱暴ながらも、比較的丁寧な語り口も好感もてました。
突出はしていなくても無難なジャンル映画と言えるでしょう。


某動画サイトにて