このレビューはネタバレを含みます
西暦2056年の地球は汚染と人口過剰が進み、問題が噴出。その頃、人類は惑星をテラフォーミングする段階として、火星に空気を引き起こす藻の種を撒いていた。しかし、その藻から生み出される酸素量が減っていることを知ったクルーは、調査のために火星へと航海に乗り出すのだが…。
恐らく見たはずなのだが、内容を忘れたため鑑賞。
出演は「トップガン」のヴァル・キルマーと「マトリックス」のキャリー=アン・モス、「ヒート」のトム・サイズモアに「コレクター」のテレンス・スタンプ。
さらにTV「LAW & ORDER」のベンジャミン・ブラットに「メンタリスト」のサイモン・ベイカー。
意外と豪華キャストな近未来SFだ。
興味深い科学的な考証もあり、ピンチの連続なのだが、なるほどグッと心に迫る場面が無い。
内容を忘れたのはそのためか?
アドベンチャーアクションとして見れば、そこそこ面白いSFの佳作である。
宇宙船が火星軌道に到着した直後、船長を除くクルー達は探査船で火星へ。
その時、太陽フレアに襲われた探査船は故障し、そのまま火星大気圏に突入して不時着。
火星に放り出されたクルー達は、数十年前に建設されたまま放置された基地を目指すが、不時着時の怪我から将校のテレンス・スタンプが死亡する。
続いて副操縦士のベンジャミン・ブラットが「もう助からない」と悲観し、助かりたいサイモン・ベイカーと言い争って谷間に突き落とされる。
残ったのは整備士のヴァル・キルマー、生物学者のトム・サイズモア、火星地球化の専門家サイモン・ベイカーの3名。
火星脱出の鍵となるはずの飛行士が相次いで脱落し、宇宙飛行の専門ではない3人が生き残る。
一方、火星軌道上に残ったキャリー=アン・モスは太陽フレアで破損した母船の修理で精一杯だ。
しかし、なぜか火星でのサバイバルに対する危機感がなぜか感じられない。
恐らくそれはピンチの演出を優先するあまり、キャラクター描写が不足しているため。
経験値や落ち着いた言動から、年長のリーダーになると思われたスタンプをいきなり失い、副操縦士プラットも失うが悲しむ描写もない。
火星からどうやって戻るのか?
火星では何が大変なのか?
恐れるべき要素が良く分からないまま、生き残った3人は物資を求めて古い基地を目指す。
「さぁ、困った。でも酸素の残りは限られている。悲しんでいる暇はない。何とかして生き延びる手段を考えねば。」と、あまりにも淡々と行動に移していて、緊迫感がないのが本作最大の難点だ。
だがピンチはさらに続いていく。
3人は基地へと到達するが、あり得ないほど破壊された基地を見て困惑する。
基地は火星の厳しい環境にも耐えられるように設計されたはずだが。
時間が経ち、命運も酸素も尽きたとキルマーがヤケ糞でヘルメットを取ると、何と火星の空気は少し薄いが呼吸できる状態であることが判明。
火星の夜の温度差を解消するため、3人は廃材で焚き火をして難を逃れる。
そして一難去ってまた一難。
不時着の衝撃で故障した軍のドローンが彼らの前に姿を現し、サイズモアを襲って肋骨を折る。
キルマーはドローンを停止しようとして失敗、ドローンは逃走する。
キルマーは基地の廃材を使い、簡易無線を制作して、母船と連絡を取ろうとする。
何とか母船の船長と交信できた3人は、ロシアが過去に捨てた調査船まで歩くことに。
だが、その調査船には2人しか乗れないことをキルマーは隠す。
嵐が近づき、洞窟に避難していると突然ベイカーが逃走。
倒れた彼の身体からは無数の昆虫が飛び出す。
人類が火星で酸素を発生させるための藻が昆虫の栄養源となり、爆発的に増えたとサイズモアは推測。
この昆虫が鋭い歯で基地も破壊したのだ。
サイズモアも昆虫の犠牲となる。
やがてキルマーはロシアの調査船を見つけるがバッテリー切れ。
そこに現れたドローンを拘束し、バッテリーを採取。
カプセルに乗り、母船が待機する軌道上へと戻ったキルマーを母船の船長が確保。
2人は地球へ帰還を始める…。
火星での目紛しいピンチの連続はアドベンチャー映画のノリ。
製作された2000年の時点では開発されていないドローンや紙のように変形する端末のような先を見越した技術、四足歩行のドローンや折り畳み式の宇宙服ヘルメット、全てロシア語で書かれた調査船の操作画面などのガジェットも見た目に楽しい。
母船に起こる宇宙での火災の描写や火星には生物がいたという考証も面白く、SFとしては頑張っているのではないかと思う。
何よりテラフォーミング(惑星地球化計画=天体を改造して、人類が定住できる環境に作り変える計画)を題材にしたSF映画は現在でも見かけないため貴重だ。
しかし、問題は演出だ。
主演を張れる役者を擁していながら、その演技力を発揮する見せ場に欠ける。
迫り来るピンチの連続に死を覚悟して恐怖したり、仲間の死を悼んで涙したり、助かろうと意地と根性を見せたり、足を引っ張る人間や悪役となる人間の醜さを見せたり…と、本来あるべき人間臭さの描写がほとんど無い。
ゆえに80〜90年代の大らかなご都合主義のB級なアドベンチャー映画と変わらぬ印象。
それをSFでやってみましたという感じだ。
「いろいろあったけど助かって良かったね」と、記憶に残らない作品と化しているのが残念だ。
だが、人間臭さが見られないため、誰が死んでもおかしくない展開に見える。
もしもそれを狙っていたなら、アリだろう。
それならば、こんな豪華キャストにする必要はなかったのだが…。
面白いが演出が勿体無いSF作品である。